先日オークションでエレクトロボイスの409−8E(中古)を4個入手しました。手にとってコーン紙をはじいてみると、いかにもシーリング(天井取り付け用)スピーカーらしく、高めのfoとなるため、そのままハイファイの土俵で使うのは難しいと感じました。

つまり音の明瞭度を上げるため、あえて低域をカットし、なおかつ大量のスピーカーを同時に鳴らす必要があるため、中音域の能率を上げてパワーアンプの負担を減らしているわけです。

とりあえずメーカー発表のインピーダンス特性を見ると、ピーク値は100Hzと読めるのに、表記上のfo=90Hzとなっていました。そこで実測してみたところ、値はなんと4本ともピッタリ117Hz前後となり、これでは低音というより低めの中音です。


        


いくら元アルテックという名の下でみんな納得しているとはいえ、またエージング不足を考慮しても、家庭用オーディオにこのfo値はちょっと高すぎます。ならば何処かカイゼンする部分は無いものかと隅々を見直していた時、ふとツィーターに伸びるリード線が目に止まりました。

このリード線は入力端子からコーン紙を経由してツィーターにつながっているのですが、コーン紙からツィーターまでの線が短いため、この部分でリード線がコーン紙の動きを抑え、foを上昇させているという可能性があります。

早速裏側からボルトで固定されているツィーターをはずし、リード線の半田付けを取ってみると、予想通りfoが一気に108Hzまで低下したではありませんか。この帯域の9Hz差は楽器の1音半くらいに相当し、こうしたユニット本来のポテンシャルを下げるような設計は、スピーカーマニアとして無視できません。


       


しかし2個にバラしたまま普通の2ウエイのように分けてボックスへ取り付けたのでは、せっかく同軸型を手に入れた面白味がありませんし、かといってスピーカー前面にツイーターリードを露出配線するのはあまりに不細工です。ちなみにこのツィーターは台湾製でした。

そこでツィーター固定ボルト貫通用の穴を利用し、ここからリード線を通すことにしました。またボルトにはナイロンパイプのスペーサーが付いていたので、これもそのまま利用し、ボルトは使わず接着剤で固定することにしました。


          


通常ナイロンは接着剤が効きにくいのですが、専用プライマー(セメダインPPX−3)を付けると一般の瞬間接着剤で強力に接着できます。まずパイプに横穴を開けそこからパイプの中にリード線を通し、パイプをツィーターに接着します。

ツイーター付属のNPコンデンサー(3,3μF)は使わず、直接ツィーターからリード線を出す事で、外部からコンデンサーが自由に選べるようにしました。またこれは今回の改造中とても重要な部分ですが、独立配線になったため、必要とあればメインユニットにも倍音抑制用コイルを挿入出来ます。


         


この後素直にツィーターをメインユニットに取り付ければ良いのですが、また悪い癖が出て、コーン紙に若干のウエイトをのせ、更にfoを下げることにしました。今回は糸ハンダを30cm用います。下の写真はウエイトを付ける直前のものです。

これによりfoは92Hzまで下がり、あとはエージングで様子を見ながら適当なボックスに収め、オリジナルとの比較でネットワークを組んでいきます。


      


私の行うエージングは、ユニット単体(フリーエア)のまま、ヒータートランスのセンタータップから約3V50Hzを数日間加えます。これはコーン紙に負荷を掛けないよう、また低音の打ち消しによりエージング音を低減させるようにするためです。なにしろブザーのような音が延々と続くのですから。

ツイーターリードをはずし上記のエージングを10時間行うと、foが108Hzから103Hzまで低下しました。前の所有者はけっこうガンガン鳴らしていたようですが、このユニットに関する限りその程度の揺さぶりでエージングが進むことはなかったようです。

またこのユニットは1,5K〜5KHzに山があって、こうしたキャラクターをどう扱うかが腕の見せ所といえましょう。つまり中域がある程度張り出ていながらナローレンジを感じさせないという帯域バランスが音作りにおいて決め手となります。


       


今回は同軸つながりと言うことで、リングダクトによるバスレフを試します。リングダクトというのは今回テキトーに思い付いたネーミングで、コアキシャルダクトまたは同軸スリット型といったほうが分かりやすいかもしれません。すでにボーズ社などが以前より似たようなものを実用化していて、要するに同軸状にパイプが組まれたダクトです。そして今回はそれをエンビパイプで作ります。

材料は下の写真のように25、50、75mm用の継ぎ手を利用し、2組分が500円程度で買えてしまいました。ただし50mmは短いので2個直列にし、それぞれは6mmの丸棒(木)で支えます。こうしてがさつな私ですがなんとかリングダクトが組み上げられました。


   


ボックスはジャンクで購入したDS251−MKUの前面を切り抜き新たなバッフルを貼る、いわゆるリユースです。この方が最初から作るより手間もお金もかかりません。


   


またこうしている間にエージングも落ち着いてきたので、改めてfoを計測した結果が下の表です。このようにある程度使用されていたユニットであっても、ちゃんとしたエージングを行えばfoは低下してゆく事が分かります。

よく「数時間聴いていたらエージングで音がなじんできた。」などという記事を見ますが、そんな簡単にエージングは進みません。そんな時はスピーカーではなく耳がエージングされたと思ってください。

 エージング無し 
 リードカット無し
 エージング有り  
 リードカット無し  
 エージング有り 
 リードカット有り
 エージング有り
 リードカット有り ウエイト有り
118Hz 108Hz 103Hz 89Hz

更に自称オーディオマニアにはもう1つ越えなければならない辛い山があります。それがフレームに貼られたぶ厚い紙のスペーサー除去です。これはツイーターと高さをそろえるためのもので、フロント直にパンチングメタルやサランネットなどが付かない時は必要なく、音響的には有害です。

こうしてやっと音を出してみると、やはり中高域にツイーターの音がマスキングされるほどの強いピーク感があって、おまけに低音域とのバランスも崩されています。

このスピーカーの低音が出ないという評判はfoが高いせいもありますが、それに加えてメインユニットの分割振動による過大な中高音が原因といえます。別の見方をすれば、そのおかげで少ない出力でも効率よく館内アナウンスなどが出来るわけです。

   


そこで試みとしてメインユニットに1,2mH(カットオフ1kHz)のコイルを入れてみると、これが偶然にも一発で決まり全帯域でバランスがとれました。しかもボーカルが前へ出るイイ感じはうまく残されていて、まさに独立配線が効を奏したといえましょう。

実際の音出しでは、やや中音によったいわゆるB級ハイファイ独特のドンシャリ感がクラシックから打ち込みまで濃密かつ分離良く、その小気味良さは「・・・でもボーカルの再生はイイ感じで・・・」といった言い訳を必要としません。

真空管アンプ(FU50シングル10W)でビリージョエルのLPをかけながらグランツーリスモ5の筑波9時間耐久レースを走ると、エンジン音に負けない音の濃さがサーキット540周におよぶ長丁場の疲れを忘れさせてくれます。なんと贅沢で非現実的なカーオーディオのシチュエーションでしょう。



       


下が相対的周波数特性です。バスレフは60Hzで効いていて500Hz周辺や50Hz以下にウエイトの効果が出ています。中高域の大きなピークは若干の名残りを保ちながら、コイルが程よく押さえてくれています。

1KHzを基準に見ると改造後は60Hzでー3dB、30Hzまでー10dBに収まっています。さらに120Hzにある8dBに及ぶピークの助けもあり、低音不足はかなり解消していることがわかります。


     


やはりこのユニットは、たとえB級ハイファイ用だとしても、何もせずに鳴らすのには無理があるようです。しかし少しだけ手をかけてやれば感度も高く指向性も広く、なかなか魅力的なシステムになります。またリングダクトもかなり効率良く低音を出していますので、さらにツインダクトやツイーターの変更を試します。(その2へ)

全国にいる409ファンのみなさん、あなたはその音が本当に良いと思っていますか?もし少しでも不満を感じている方は是非こうした改造をオススメしますし、このユニットは自らのポテンシャルの名誉に掛けて、それを待っています。

(その2へ)


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