テレビという複雑な回路の登場で、電気業界では様々な用途の真空管が開発されました。それらが全てトランジスタに置き換わった後も、オーディオ界は役目を終えた多くの真空管たちを、現役として活躍させ続けています。

まさにオーディオは、真空管に優しい趣味の世界の代表格と言えるのではないでしょうか。その原因は、オーディオが低周波の増幅という、最も素朴で基本的な部分を中心に扱うためと思われます。

だからこそ塩味だけの米や、醤油による刺身同様「球」本来の味わいが語られる一方、複雑な回路や負帰還に凝るほど、元の味わいは遠退き、単なる電子部品に近付きます。


              



このように真空管の違いによる音の差は十分科学的なのですが、同時に様々な迷信を呼び起こしやすいという点も注意しなければなりません。

1969年だったでしょうか、バイポーラトランジスタは超3極管特性になるという記事が出て世をにぎわしました。しかしこれはエミッターフォロワーもしくは強いC-B帰還(真空管ならP-G帰還)による特性だったのです。。

一見素晴らしい3極管特性のように見えたのは、単なる入力電圧による特性カーブの平行移動だとわかり、都市伝説の威力を感じたものです。

現在でも強いP-G帰還による特性を、3極管特性の一種だと思っている人が少なからずいるでしょう。


      


一方超高圧レギュレーター管については、さすがのオーディオでも手をこまねくしかありません。今回扱う6BK4も2万5千ボルトあたりが基本動作領域ですので、2千ボルト以下ではほとんど電流が流れず、増幅作用が期待出来ないのです。

グリッド電圧が0V時、定格プレート損失30Wに対し、プレートに1000V以上かけても、プレート電流は0,2mA以下だとわかり、増幅作用は望めそうもありません。

であればこそ尚更真空管マニアとしては、なんとかこの球の活路を見い出したくなります。そしてこれこそが、今回の6BK4救済計画というわけです。

そこでグリッドをプラス側に振るとどうなるか計測してみたところ、なんとか利用できそうな雰囲気を持ったカーブが見えて来たではないですか。


                


当たり前ですが1000V以下の特性カーブを見る限り、電圧利用率は悪く、Gm=500μSと効率は良くないものの、一応増幅回路として:活用できそうです。

ただしこの球のフレームグリッド(おそらく)がプラス側になるため、グリッド電流による損失を調べる必要があります、そこでプレート電圧1000V時のグリッド電流を調べてみました。


グリッド電圧:V 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
グリッド電流:mA 0 0,9 1,9 2,9 5,0 6,9 8,6 10,6 12,9 15,3 17,8


以上の計測により下図の動作例が設計できました。プレート電流よりグリッド電流の方が大きくなりますが、この条件なら無信号時のグリッド損失は18mWですので、仮にフレームグリッドであっても安全圏内でしょう。

ちなみにグリッド電流は、500V以下でも、ほとんど変化しません。入力インピーダンスはバイアス電圧にもよりますが、1,5kΩ程度です。


               


この動作に合うダイナミックカップリングドライバーとしては、6SN7の中国版である6N8Pが適していると判断したので、早速特性カーブを検討してみると、プレート電圧150Vで丁度マッチするとわかりました。


               


以上の事から具体的な動作回路を描くと、下のようになります。75倍という増幅度はやや低目なものの、とりあえずこれが6BK4活用法の中では一つの結論という感じです。また出力インピーダンスも高いでしょう。


                


特性を計測するため、今回は実験用シャーシを作りました。このシャーシでは通気孔の実験も行っています。


         


左が計測中の6N8P、右が6BK4Aです。6BK4Aはこのサイズながら6V 0,2Aと少ないヒーター電力のため、全く熱くなりません。


        


オーディオ回路は最も素朴で基礎的な回路と書きました。しかしだからといって、その全てが完全に解明されているというわけではありません。

特に真空管は、半導体と比較された非効率性により、さっさと研究及び実用対象から外されてしまいました。しかし偉大な先輩達が築いたこの素子の存在を、効率だけで捨て去って良いのでしょうか。

逆にこの基本的部分を研究し尽くすことは、より高度な回路の発展にも役立つはずです。最先端は最先端で、基礎は基礎で、それぞれが研究することにより、新たな可能性が見えてくるでしょう。




つづく




.
その1
目次へ