この球は安く、プレート損失もそこそこで、リニアリティが良いという特徴をもっているため、シングル動作などではかなりポピュラーです。

しかし私にとっては、800V以上の高圧動作がほとんど紹介されていないため、「この球の本当の実力はみんな知らないんだろうなー。」とほくそえむ楽しみが隠されてる球とも言えます。

実際この球の特性カーブにはシビレますし、これを基にした高RLのEc-Ip特性からは、どうぞこのエリアでA2級シングルアンプをお作りください、という声が聞こえて来るようです。

500V以下の動作も否定はしませんが、・・・まあとりあえず、それはそれで仕方無いでしょう。


 


それはさておき今回は方向を変えて、というよりこの球本来の用途どおり、B級PPを設計することにしました。というのも特性カーブから811AのようなB級専用球のほうが、PPでは理想的動作をしそうなカーブを持っているからです。

811APPで有名なのが、アルテック1570-Bです。このアンプの評判は、残念ながらまだ聞いたことがなく、それなりにビンテージ扱いされている反面、どうもB級PPということでHiFiというより、PA用に位置づけをされている気がします。


             


      


しかしながら例えばKT88(T)は下記ようにすばらしいリニアリティを持ち、HVTCシングルでも3%以下の歪で9Wを出せますが、PP動作ではカットオフ特性のため、クロス地点でわずかに歪が発生してしまいます。


  

    


図面から考察する実際の動作では、微小出力では問題にならず、逆に大出力でも分りにくい反面、日常使いそうな2〜3Wあたりで影響が出る様です。

ただし歪波形の乗り方が絶妙なため、数値には出ないかもしれません。またこうしたクロスオーバー歪というより合成歪は、ノンリニアな部分が動作環境に入ってくる事が原因なため、打ち消しあう事は出来ず、例えA級PPでも大なり小なり発生してしまうでしょう。

試しにバイアス電圧をさらに深くしてみると、また違う倍音成分が出てくるのが分り、使用スピーカーとの相性や好みなどの要素も手伝って、ひとによっては「この球は電流をたっぷり流さないとダメである。」などと断定させているようです。


    


一方B級専用の811Aを計測し、いくつかの図面を構成してみると、B級=クロスオーバー歪といった概念をひっくり返すような、ほとんど理想のPPが行われていそうなのです。


  

      


この特性から推察すると、おそらくフルパワーまで歪が1%を超える事は無いでしょう。さらにこのカットオフ特性と内部抵抗の高さから、OPTのP1-B間に電流が流れている時、P2-Bはほとんどオープンに近い状態になっているはずです。

そのため1次側コイル相互間の影響が絶たれ、PP用OPTが理想状態で働くことになります。つまり811AなどB級専用管によるB級PPは、最もシングルに近いPPであるという、意外な結論に達しそうなのです。

ただしその一方で内部抵抗の高さがダンピングファクター(DF)を低下させるという問題があります。

つまりこのままの状態ではおそらくDF=0,3くらいとなり、汎用性がありません。とは言えせっかくNFB無しで歪の少ないアンプが出来るのに、DFのためNFBをかけると言うのもシックリ来ません。

そこで、例によってまたずるい考えが浮かびました。それは「DFによって影響を受けるのは主に低域だから、低域だけNFBをかければいいじゃないか。」と言うものです。

もちろんそれでは低域だけゲインの少ないアンプになってしまいますから、前置アンプを設け、そこで低音を増強する、または全体のゲインを高めに構成し、入り口にイコライザーを入れると言うナイスなプランが登場しました。


     


下降周波数を500Hz、下降停止周波数を100Hz位にしておけば、OPTの高域における位相ズレも無関係ですし、中域以上は無帰還アンプのままということで、めでたしめでたし。

次に問題なのは、この手のB級動作に基本とされるトランスドライブですが、そのようなトランスはなかなかありません。そこでカソードチョークドライブとし、バイアス電圧を0Vにするためマイナス電源を組みます。


つづく








目次へ