永年特性カーブを計測していると、多極管の中には、3極管接続時に極めて素晴らしい特性を発揮するものが多くあることに気付きます。

それはあたかも3極管接続の為に生まれて来たような印象を感ぜずにはいられませんでした。そこで新たに Multielectrode Tube For Triode (3極管のための多極管)認定委員会を立ち上げ、ぜひ皆様に認識を新たにして頂きたく思いました。

こう書くと「そりゃ余計なお世話だ。」「そんな必要がどこにある。」「迷惑という文字を知らんのか。」と一蹴されそうですが、すでに立ち上げてしまったので、4番手として今回はKT88を調べてみることにしましょう。

KT88は真空管の中では珍しく、と言うよりも唯一ウルトラリニア特性を発表しています。逆に言えば他の球にはそんなものが無いにもかかわらず、多くの人がウルトラリニア特性を信じ切っているわけです。

KT88は3極管特性をも発表していますが、オーディオ用多極管において、3極管接続とは一体何でしょうか。まず出せる出力が低下します。更にプレート電圧によりプレート電流が変化するので、電源ハムやレギュレーションの影響を受けやすくなります。


    


またドライブ電圧も大きくなるため、電圧増幅段が大掛かりになります。ではここまでして3極管接続を行う理由は一体何でしょうか。5極管のままではダメなのでしょうか。

実際は5極管でもNFBを使えば、低歪みでダンピングファクターも十分なアンプになります。ところがそれでは打ち消しによる、一定方向へ修正された音にしかなりません。

これは美容整形で美しくなれるけれど、みんな似たような顔になってしまい、しかもメークまで同じなので、見分けがつきにくい海外ドラマに似ています。

例えば強いP-G帰還をかけて特性をフォロワのようにすると、3極管特性に「超」似た形になりますが、実際には1本のカーブがスライドしているだけで、3極管特性ではありません。

これは「ヤツメウナギ」が「ウナギ」とは異なる「円口類」の生き物だとか、「カモシカ」が「シカ科」ではなく「ウシ科」であるというのに似ています。またキャラクターはほぼ消滅します。

ですから最終段をフォロワにしている多くのトランジスタアンプでは、出力段とは言え、ドライバーの奴隷となっている巨人でしかないわけです。


               
               黄色い部分はいわゆる超3極管特性であると分かる。
                 ただし超3極管特性は3極管特性ではないので混同に注意。



さらに電圧増幅段ならば抵抗負荷ですので、強いP-G帰還も問題ないのですが、出力段の強いP-G帰還では、OPTのインダクタンスとキャパシタンスが絡むので、位相回転による発振が問題になります。

一方3極管接続では、そのままで低歪み、高ダンピングファクターが実現するため、真空管のキャラクターをいじることなく実用レベルの基本性能を達成できます。そしてこのキャラクターは、アンプ製作者の都合で勝手に作りだすことが出来ない、真空管ごと固有の値打ちと言えます。

ただし十分な直線性を確保するには、高い電圧領域と高い負荷抵抗が必要で、またこの高い負荷により高いダンピングファクターが得られます。

逆にこのような設定にしなければ「3極管接続も試してみたけれど・・・。」というレベルで終わり、単に前述したような3極管接続の欠点を露呈しただけのアンプになりかねません。

実際KT88の3極管接続特性は、HVTCの活用により5極管接続に引けを取らない、シングル10W以上の出力も出せます。同様にプッシュプルでは60W超えも可能で、3極管接続は出力が出せないという体制思想に反旗を翻す代表者とも言えましょう。

私はMTFT認証委員会の第3副顧問相談員という立場から、このKT88を近代中国民主思想家のノーベル平和賞受賞にも似た気持ちを込めつつ、第4回(シーズン1最終回)MTFT認証球として、是非皆さんに推薦したいと思います。


                


このようにして認証がなされたため、今後は計測によるデータを基に、アンプの設計に入りたいと思います。

ちなみに3極管及び3極管接続におけるレギュレーションの影響を逆手に取ったのが、整流管の使用によるコンプレッサー効果です。直後のコンデンサーは容量を小さ目にした方が、時定数が減り、反応も良くなります。

また整流管の内部抵抗とコンデンサで、いわゆるリップルバッファを構成して整流波の角を丸めてから、角が苦手なチョークコイルに手渡すと、レギュレーションの悪さを温存したまま、ハムが気にならない面白い電源になります。

整流管の内部抵抗は、シリコンダイオードと抵抗でもシミュレーション出来ると考えがちです。しかし整流管の抵抗特性は、よく使う100mA辺りまで直線ではなくカーブを描き、しかもそれが整流管による個別のキャラクター、つまりレギュレーションモードを持っているというわけです。

カーブトレーサーを使えばこうした状況も観察でき、例えば人気の5AR4と6R-K19(2ユニット)が、同じ音の傾向だということも科学的に分かります。もちろんプラシーボ効果には、とてもかないませんが。


つづく