永年特性カーブを計測していると、多極管の中には、3極管接続時に極めて素晴らしい特性を発揮するものが多くあることに気付きます。

それはあたかも3極管接続の為に生まれて来たような印象を感じずにはいられませんでした。そこで新たに Multielectrode Tube For Triode (3極管のための多極管)認定委員会を立ち上げ、ぜひ皆様に認識を新たにして頂きたく思いました。

こう書くと「そりゃ余計なお世話だ。」「そんな必要がどこにある。」「何度もしつこい。」と一蹴されそうですが、すでに立ち上げてしまったので、3番手として今回は6AV5を調べてみることにしましょう。


                       


6AV5の偏向管としての地位はすでに盤石な一方、偏向ビーム管に付き物の噂、つまり「G2耐圧伝説」は、誤解の原因が明確になりつつある今日まで、意外なほど信じられてきました。

この球の例でもたったEsg=175Vという、3極管接続状態ではほとんど何の動作もできないほど、というよりも真空中に距離を置かれた電極間の耐圧としては、常識で考えてもあり得ないほど低くなっています。


        


それでも規格表はバイブルですので、信者としてわき目を振るわけにはいきませんし、オーム事件でも異常を普通と思ってしまうような、恐るべき信者の心理状態を感じました。あれは他人事ではなく、私自身にも常に起こりうるのです。

とはいえバイブルに書かれていないが故に「悪魔の食べ物」と呼ばれ、のちにヨーロッパの飢饉を救ったジャガイモのように、一歩引いて見るのも大事でしょう。

例えばサブミニチュア管の5703を見ると、あんなに小さな間隔でも275Vという耐圧が書かれていて、「これは何かおかしいぞ。耐圧の黒魔術か?神の御業か?それともオレがダマされているのか?」とバイブルの中に存在する小さな矛盾点から、改めて考察することも出来るわけです。


             


そこで、さまざまな議論はひとまず置き、客観性を持った実験や実測を何度も行った結果、6AV5は第2グリッドの耐圧に問題がないだけでなく、その特性が有名3極管の2A3とほぼ同等であると判明しました。

また上部に電極が無いため配線も楽です。そして今だに真空案マニアの理解が遅れているおかげで、6V6などと比べて価格が安く、つまりHVTC不信論者が多いということは、結局HVTC活用者に利益をもたらしてくれると言えそうです。

一般に偏向管は電流増幅率を上げるため、高(深い)バイアス時のリニアリティが劣り勝ちなのに、この球だけは別格で、深いバイアスまで実に美しい特性を示します。

いくら真空管の価格が希少性や人気による相場ものとはいえ、誰でも1万円以上した名球が1000円もしない球と同等とは思いたくないでしょうし、ましてや負けているなどというのはあってはいけないことです。

しかしどんなに有り難い名球でも、いや古典的名球であればこそ、このようにカーブを計測してみないと、その実態はわからないのです。


               


かつての肉体労働者が歌姫に変身することもあるように、この球のHVTCは、まさに偏向管人生における最高のカミングアウトと言えるでしょう。

私はMTFT認証委員会の第3副顧問相談員という立場から、この6AV5を第3回MTFT認証球として、是非皆さんに推薦したいと思います。


                     


このようにして認証がなされたため、今後は計測によるデータを基に、アンプの設計に入りたいと思います。

ちなみに古代ギリシャで始まった自然科学の動きですが、その後ヨーロッパ内ではバイブルによって長年封じ込められ、1500年後ニュートンらによって花開くのです。

そしてそれまでの間、脈々とその英知を受け継いでくれていたのが、イスラーム社会なのでした。それからのヨーロッパにおける改革は素晴らしく、空を飛んで帰ったとされる16世紀の魔女裁判では、「イギリスには空を飛んで帰ることを禁ずる法律は無い。」として、無罪判決が出ています。


つづく