あまりに当たり前過ぎて、今までやらなかった実験。
ヤナギダ理論では、第2グリッド(g2)電圧がプレート電圧と同じかそれ以下ならば、g2電流が低く抑えられるため、簡単にg2損失オーバーは起こらず、A1級動作なら規格表のg2耐電圧を超えても3極管接続が可能である、としています。

それならば3極管接続で、プレートとg2の間に入れる100Ω程度の抵抗器の意味は何かと自問すると、「気安め。」「今までの慣習。」「みんなやってる。」「なんとなく。」「本に出てた。」「おまじない。」「悪霊退散の儀式。」といった答えしか出せません。

確かにHVTCの実験でKT88(T)のg2抵抗を大きくしながら計測した際、特性カーブに変化が少なかった事は事実ですが、やはりアンプとしてどうかという事を明確にしないと、私自身としても納得しにくい気持ちがあります。

そこで今回は出力管のg2抵抗を変化させ、その歪率と最大出力を比べるという実に簡単な実験を行いました。こんな実験、何故今までやらなかったのかと思いますが、実際まったくやってこなかったのです。

今回測定する回路は、下図のような4D32HVTCシングルアンプを用います.。この動作条件では4D32の通常最大プレート電圧が600V、g2電圧が350Vのところ、どちらにも650V以上かかっています。


  


またRg2は100Ωから、500、1k、5k、10k、20K、50kΩと変化させます。
それではちょっとレアな測定結果をご覧ください。


        
                                
        

         

       

       

        

       


いかがでしょうか。さすがにRg2の値が10KΩ(通常の100倍!)を超えるとキビシクなりますが、5KΩ時の値くらいで「このアンプの最大出力は14W。」などと表示している製作記事は、けっこう見受けるようです。

しかし小型5極管の動作では、2〜3KΩですらg2の電圧を低下させるためのドロップ抵抗になっているのが普通です。

それが10Wを軽く超える3結シングルアンプであっても、この程度で収まっているのは、いかにg2電流が少なく抑えられているか、つまりg2損失が小さいかを示しています。

また10KΩ10W時の特性から、g2損失が3結時において、プレート損失にはほとんど寄与していないということや、g1が0V近くになる最大出力付近でRg2の影響が強く出る、つまりg2電流が急上昇するため、3結多極管はA1級の範囲内で使用することが好ましいとわかります。

そしてHVTCはこのような実態を基に実現,、成立しているわけです。


         



一般にプレート損失オーバーによるプレート赤化現象の経験は、アンプの調整中などに誰でも遭遇しやすいので、プレート損失についの危機感はほとんどの人の心に確立しています。

ところがグリッドの赤化を目にする機会は、球の特性計測でもしない限りめったにないため、グリッドの損失について、どうしても漠然とした甘い対応になりやすいようです。

そして調整時ゆっくり赤化するプレートよりも、動作中一瞬で赤化しすぐ元に戻るグリッドが毎回発生するガスの蓄積により、球は劣化させられているのです。

ですから例えば811AなどB級専用管のA2級動作などでも、「低いプレート電圧で大きな出力が出せた。」などと喜ぶのではなく、できるだけプレート電圧を高く設定してグリッドの負担を軽くしてやることが大切で、それが球の長寿命化、さらにはグリッド電流の減少による動作特性の低歪率化にもつながります。

だいいち電源コンデンサの耐圧を理由に、真空管の動作範囲を規制し過酷な動作を強いるなんて、あまりにもったいない話ではありませんか。







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