6AS7系の秘められた可能性を追求する


NG管として入手した6AS7Gのガラスを撤去し、改めて眺めてみると、プレート・カソード間が極めて狭く感じます。例えば5U4と比べても、むしろその間隔が狭いほどです。

もしかしたら6AS7系は意外と優秀な傍熱型整流管になれるのではないでしょうか。過去にも845を2極管接続して、845シングルに使うという、大変リッチなメーカー製アンプがありました。

一方6AS7をわざわざ整流管として使うメリットを考えると、近年「整流管は音がイイ!」と言われ値上がりしている反面、「6AS7系は音がイイ!」といった評判がないため、1000円を割る新品が存在している点があげられます。

実際真空管OTLでは、回路設計に対し様々に語られる場面はあっても、球そのものの音質に言及されることはほとんど無いのです。


   


整流管にとって大切なのは、内部抵抗と尖頭逆耐電圧です。内部抵抗は電源のレギュレーションにとって重要な要素であると同時に、この数値が高いと順方向の電圧降下によるプレート損失が上昇するため、A級アンプなど電流が流れっぱなしのアンプでは不利になります。

そこで2極管接続時と3極管ゼロバイアス時のEP−Ipカーブを計測してみました。これによると2極管接続時100mAで8,8Vとなり、内部抵抗が88Ωとわかります。またこの時のヒーター電圧は5AR4にならい、あえて5Vとしています。


    


比較としてGEの5AR4のEP−IP特性を見てみると、100mAで10Vつまり100Ωとなって、6AS7による2極管接続の方が若干内部抵抗が低いとわかります。


     


なお5U4−GBではさらに高く、250Ωとなります。このように整流管は内部抵抗がそれぞれ異なるのに加え、そのカーブが直線ではないので、アンプの動作点が変化する事により、倍音つまり音質が変わってしまう可能性があるわけです。


     


しかしそれをあまり誇張して語るのは、「オレの耳は云々・・・」と叫んでいるようでもあります。

またグリッドを開放したバイアス無しの状態では、わずかに不安定なループが発生し、内部抵抗もゼロバイアス時より高く、使い物にならないようです。


    


グリッドが無接続(オープン)なのにゼロバイアスよりも電流が流れにくくなるのは、グリッドに電子が帯電し、不安定なマイナス電極となるからではないかと考えられます。


                  


次に尖頭逆耐電圧ですが、実験の結果800vrms、つまりピーク値1100Vで遮断されました。これよりAC入力400Vrmsが限界と考えられ、余裕をみて350Vrms以下で使用した方が良いということになります。

この値は5AR4の1500Vより低いものの、とりあえずDC出力で430V位はとれるので、ケミコンの耐圧を考えれば通常の真空管アンプにおいて、あまり制限は感じ無いでしょう。

しかしこのようなシロウト判断は必ず危険が潜んでいますから、実際に他の傍熱型整流管も同条件で計測して、安全性の度合いを確認しなければなりません。結果は下の表のようになりました。


真空管 6AS7GT
GE
6AS7GT
GE
5AR4
曙光電子
6RK19
東芝
6DW4
東芝
5U9C
ロシア
5U4
GE
公表逆尖頭値 diode zero bias 1500V 5500V 5000V 1700V 1550V
遮断電圧 rms 800V 1000V 3000V 3000V 3000V 3000V 2500V
内部抵抗 88Ω 400Ω 100Ω 100Ω 130Ω 500Ω 300Ω


ただし6DW4や6RK19はダンパ管としてのパルス耐圧のようで、計測値から整流管としては1500V近辺が妥当な値と考えられます。また5U4は公表値の割りに、遮断値が:低く意外でした。

期待していた5U9Cの内部抵抗は、6AS7のゼロバイアス時である400Ωより高く、非常に残念です。一方日6RK19(12RK19)のカーブは5AR4の片ユニットとピッタリ重なり、まさに隠れ5AR4という逸品でしょう。

そしてこのように比べてみると、6AS7・2極管接続のちょっと危なげな感じに対し、むしろ6RK19の知られざる価値観が浮上してきました。





以上の結果から安全基準を更に下げ、AC入力300Vrms以下での使用とすれば、DC出力375Vくらいが実用範囲となります。


       


また並列で44Ωという低い内部抵抗と、整流管用の5V点火による遅い電流の立ち上がりを利用して、スロースタート電源兼リップルバッファとして利用するも有効でしょう。この場合逆耐圧は考える必要がありません。


       


リップルバッファは整流直後とチョークコイルの間に低抵抗と大容量コンデンサを入れて、整流波形を滑らかにするもので、磁気飽和のピークやパルス通過などを押さえ、結果チョークコイルの効果を格段に上昇させます。

これはちょうど料理において、丁寧にアク取りをするような一手間と同じなため、確かにメンドウではありますが、その主旨において料理が得意な方など、ぜひ実行されると1ランク上のスープ(ダシ)=電源が作れます。

それはさておき、6AS7による整流電源を用いるのならば、アンプ部分も6AS7によって構成したアンプを作ろうと思います。

まず片ユニットの特性を計測して、シングルで検討してみると4W以上が期待でき、直線性もそう悪くありません。また約600Ωの内部抵抗から、ダンピングファクターは「8」程度になりそうです。


   


よって両ユニットを使ったパラシングルならば単球で9W位が期待でき、6AS7系はOPT付きアンプの出力管としても十分な実力を持っていたことがわかります。

またこの動作条件なら、A級PPで9W出せ、歪はムチャクチャ少ないですが、OPTの1次側が20KΩとなってしまいます。

PPの製作例では1970年代浅野先生がMJ誌上、RCAのマニュアルを参考にトランスドライブで出力10Wのアンプを設計、製作されていますが、今回は計測した特性カーブから、B級に近いAB1級PPアンプを設計しました。


   


どうせPPアンプを作るのなら、パラシングルと大差ない出力では寂し過ぎましょう。(浅野先生的言い回し)最低25W位は調達したいものです。

これらを見ると「6AS7系はOPT付きアンプには魅力が薄く、OTLぐらいしか用途が無い球だ。」という誤解が低価格の相場をもたらしていると感じます。

確かに電圧制御を目的としたRCAのグラフでは、プレート電圧の範囲が狭く、あまり魅力的なカーブに見えません。しかし測定してみると、実際は立派なハイパワーオーディオ3極管であるという可能性が見えてきました。


      


またドライブ電圧には200V程度スイング出来る能力が欲しいので、別途600V程度の電源を用意します。

一般的に真空管アンプは、ドライバー専用の電源を作る慣例がなく、パワー段の電圧を流用するため、残念ながら出力管の本領が発揮出来てない場合が多々あります。

しかしドライバー電源まで別の6AS7でまかなうのはバカバカしいため、「メイン電源にて義理は果たしました。」という立場から、そこはシリコンダイオードを使います。

かつてJBLがトランジスタアンプでパワー段より高い電圧をドライバーに使い、話題になった時を思い出します。それまでトランジスタアンプも、電源は1系統が普通でした。




つづく







.