この本を読んでいただく皆様へ 大きめの部品が、ゆったりと配線された真空管アンプは、まるで「電気のからくり細工」のようです。 そんな電気のしくみを理解したくなり、簡単そうな電気の入門書を買ってみました。 ところがどの本も、最も難しい基礎部分の説明を省き、一気に数式依存へと移行してしまいます。 またせっかくのイラストも、イラストレーターと著者とのリンクが弱く、充分に機能していません。 この本では、こうした体験をふまえ、 という点に心掛けた、電気の世界の探検絵本を目指しました。 |
交流の種類はいろいろある
電池に抵抗をつなぐと、いつも一定の方向に電流が流れ、これを直流といいます。
一方電池のプラスとマイナスをひんぱんにつなぎ換えて電流の向きが行ったり来たり交代するとき、これを交流といいます。
また英語では、直流をダイレクト・カレント(Direct Current)、略してDC.
交流はオルタネイティング・カレント(Alternating Current)、略してAC. とも言います。
交流はいろいろなバラエティーがあって、その波の形などから名前がついています。
三角波は三角形、方形波は四角形、ザギザのノコギリ波、三角波の上下のとんがりをカットすれば台形波もできます。
また方形波を組み合わせて階段の形をした階段波も作れます。
しかし何といっても交流の主役は正弦波でしょう。
ちなみに交流の理論はややこしいので、エジソンも大嫌いだったようですが、本書はこの部分の解説に挑戦します。
【4】正弦波の名前はこうしてついた
正弦波の「正弦」とは3角関数という数学に出る言葉のひとつで、サイン(sin)ともいい、正弦波の事をサイン波ともいいます。
しかし同事に、この波形はピアノやギターの「弦を正しく」弾いた時などに、当たり前のように出てくる、とても不思議で自然な性質の波です。
3角関数の正弦というのは、直角3角形の 2辺を使った割り算の答え を言います。そこで、具体的な例を示しましょう。
直角3角形の3辺のうち、2つの辺は文字通り直角になっています。
そこで直角3角形の積み木を、斜辺が下にこないように床に置くと、坂になる斜辺の部分と、床と垂直になる、高さにあたる辺が見えることになります。
このとき、上の図のような条件で高さが5センチ、斜辺が10センチと測れたなら、
高さ÷斜辺
という式の、 2辺を使った割り算の答え が正弦というわけです。そこで「正弦は、高さ÷斜辺だ。」ということを式にすると
正弦=高さ÷斜辺
=5センチ÷10センチ
=0,5 となります。
この式は、斜辺10なら高さ5、つまり「斜辺の長さを1とする時、高さは0,5に相当する。」という辺同士の比率を表しています。
さらに数式は世界共通言語なので、正弦という漢字をsinという記号で書くと
sin=0,5 と書けます
以上が 先ほどの条件のサイン を表しているわけですが、このままでは 先ほどの条件 を特定(区別)する名前がありません。
そこで、斜辺と床との角度を分度器で測り、その傾き角度が30度だったなら、これをサインの名前とします。
今回の条件では、「サイン30度は0、5だ。」となり、式として表せば
sin30°=0,5
これでサインに名前がつきました。実は直角3角形には不思議な性質があって、斜辺の傾き角度が判れば、
高さ÷斜辺
の答え(比率)が決まっているというのですが、よく考えてみると、これはあたりまえなのです。
なぜなら3角形は3つある内角の和が180度ですが、直角3角形はそのうち1つが90度なので、残った2つの角度の和は90度です。
そこでどちらか1つが60度とわかれば、3つめは
90度−60度=30度
となります。つまり直角3角形は、直角以外の1つの角度で、3つめの角度も決まってしまうため、辺の大小に関係なく、全て同じ形(相似形)となります。
その結果辺同士の比率が決まってしまうのです。
例えばsin45度を考える時、もう1つの角度は
90度−45度=45度
つまり2等辺三角形になります。
2等辺三角形の斜辺は、他の辺の√2(ルート2と読み、約1,4)倍であることがわかっています。
そこで高さを5センチとすれば斜辺は5×√2センチになりますから、sin45°は
sin45度=高さ÷斜辺
=5÷5√2
=1/√2
≒1÷1,4
≒0,7
ここでさらにイメージしてみますが、斜辺と底辺の角度が0度の積み木はどうなっているのでしょうか。
このような3角形の積み木は、もはや積み木といえません。
しかし空想の世界で作ってみると、斜辺と底辺とが一体になり、おそらく床に置いた紙のように薄く、高さの部分は限りなく0センチです。
このことから
正弦=高さ÷斜辺=0センチ÷10センチ=0 となり
sin0°=0 であるとわかります。
また90度のときは斜辺が直角ですから、斜辺と高さの辺の部分とが一体になり、紙が1枚垂直に立っている感じになります。
つまり斜辺と高さが同じなので
正弦=高さ÷斜辺
=10センチ÷10センチ=1 となって
sin90°=1 であるとわかります。
さらに180度から360度の間は積み木の坂の部分が床の下にめりこんでいる状態で、もはや切り立った部分ではなく沈み込んだ部分となります。
例えば210度の場合はつぎの図のようになっています。
高さとしてはマイナスの高さといえる状態になっていますから、
正弦=高さ÷斜辺
=−5センチ÷10センチ
=−0、5
そこで sin210°=−0、5 となります
さらにさらに270°の時の高さはマイナス10センチなので
―10センチ÷10センチ=−1 となって
sin270°=−1 であるとわかります。
正弦波を絵に描こうとすると、その姿は左から右にひいた1本の直線に沿って、上下に波打つ線の形をしています。
波の高さは直線上が0、直線の上部がプラス側、下はマイナス側とします。
また、直線の左端を0度と決めて、そこから右に向かって、均等に1度ずつ度数の目盛をつけておきます。
ただし1度づつ書き込むと、字が混み入って分かりづらくなるため、30度間隔で書いてあります。
ではこの直線に沿って、正弦波を描いて行きましょう。まずスタート地点は0度です。
サイン0度は0なので波の高さは0つまり直線と同じところです。
次に中間地点を省略して30度の目盛までくると、サイン30度は0,5なので0,5の高さになります。
このとき「0,5」のあとにくる単位は何でも良く、大きい絵を描きたかったら、0,5メートル、小さい絵なら0,5センチでかまいません。
また「1」を 10センチ として表せば 「0,5」 は5センチに相当して、描くのに手ごろなサイズとなります。
30度の 0,5 に続いて 45度では サイン45度=1/√2≒0,7 と増え、60度で √3/2≒0,87 、90度で最大の1になります。
90度を超えると今度は下がり始めますが、後は似たような繰り返しなので、
三角関数表 の 「より抜き版」 をつくってみました
角 度 | サイン | 角 度 | サイン |
0° | 0 | 180° | 0 |
30° | 0,5 | 210° | −0,5 |
45° | 0,71 | 225° | −0,71 |
60° | 0,866 | 240° | −0,866 |
90° | 1,000 | 270° | −1,000 |
120° | 0,866 | 300° | −0,866 |
135° | 0,71 | 315° | −0,71 |
150° | 0,5 | 330° | −0,5 |
180° | 0 | 360° | 0 |
このように360度までを1周期、または1サイクルと言い、後はこの繰り返しになるため、2倍の720度でも3倍の1080度でも同じです。
ただし、こうしたポイントをつなげただけでは、カクカクした波形になってしまいます。
そこで1度づつの数値が記してある三角関数表を使い、0度から360度まで細かく数値を入れて、なめらかな正弦波の波形を描き出します。
C)正弦波を数字と記号で書く
波の高さは、海面を見てもわかるように、時と共に高くなったり低くなったりしています。
だから高さ0mの時の波を見て「この波の高さは0mです。」などと言っても、次の瞬間にはもはや別の高さになっています。
そこで時と共に変化する波の高さを正確に表すため、先ほどの直線上の度数を活用します。
直線上につけた目盛の1周期、すなわち0度から360度までの間を、θ(シータ)という名前の点が移動して行くと、
θのいる場所で正弦波の高さはsinθとなっています。
例えば、θが0度なら
sinθ=sin0°=0
つまりθが0度なら正弦波の高さは0となります。
またθが90度なら
sinθ=sin90°=1
つまりθが90度なら正弦波の高さは1となります。
このように考えると、sinθという式があれば、θが横軸のどこにいようと、その時の、波の高さがわかってしまう事になります。
つまり「正弦がその高さを示す波」という理由から、この波を正弦波(サイン波)と呼んでいるのです。
ところで先ほど、時と共に変化する波と言ったにもかかわらず、度数の話題しか出てきていません。
確かに度数は、そのままでは時間を示しません。
しかし正弦波が1周期、つまり0度から360度まで変化する時間を1分や1秒とすれば、「1度」とはその1/360に相当する「時間」になります。
では例をあげていろいろな瞬間の波の高さを表現してみましょう。
例1)
正弦波がスタート0度から30度進んだとき、波の高さは先ほどの表から
sin30°=0,5
例2) 1周期360秒かかる正弦波では、360秒で360度進むのですから1度は1秒になり、スタートから30秒たつと30度進んでいることになります。
その時、波の高さは
sin30°=0,5
これを実際の波形で見てみると次の図のようになります。
例3) 1周期12秒の正弦波がスタートから6秒たつと1周期の半分の180度だから、波の高さは
sin180°=0
実際の波形でこれを見てみましょう。
例4) 1周期1秒の正弦波が10秒たつと3600度つまりちょうど
10周期目を終えてスタート位置に戻っているから、波の高さは0
sin3600°=sin360°=0
図ではスタート地点から9秒後までは省略して描きました。
このようにして、
@ 1周期にかかる時間と、 A どのくらい時間が経過したかを元に、 B sinθという式のθ(=角度)が何度になっているか、 |
これを調べれば、波の高さが表示される事が分かってきました。
ただし、こんなにぱっと答えが出るのは、上の例のような分かりやすい場合にかぎり、普通は三角関数表のお世話になります。
【5】 正弦波はいろいろな音の源
正弦波の音を耳で聞くと、音程の高さにより、ピーとかポーとかモーなどとカドのない音です。
しかしこれが何種類か混ざると、だんだんギーとかビーとかブーなど様々な音色に変化します。
そして私たちが日ごろ聞いている様々な音は、いろいろな音程の正弦波が複雑にミックスされたものなのです。
A)正弦波の周波数とは
いろいろな音程の正弦波をうまくあらわす方法はないでしょうか。
そこで「ピー」と聞こえた音が、1秒間に1000周期つまり1000回空気を振動させている音なら、これを1000ヘルツまたは1キロヘルツの音と表現します。
ヘルツはドイツの物理学者で、電波を発見しました。
ふつう正弦波は1秒間に何周期を繰り返すかという、周波数で判別します。
またヘルツは「Hz」と言う記号で表し、キロヘルツは「KHz」で表します。
B)正弦波を周波数のわかる数字と記号で書く
最初は1秒間に1回振動する1Hzの例で考えます。
このとき1周期つまり0度から360度まで、θ(シータ)という名前の点の移動が、ちょうど1秒間で行なわれます。
では1秒のちょうど半分、0、5秒後の波の高さはどれだけかと言うと
sin(360°×0,5)=sin180°=0
このとき、波はちょうど180°まで進み、0の高さのところを通過中でした。
ところで角度には π(パイ) という記号による表し方があり、それによるとπとは180度を意味し、360度は 2π になります。
これを使って先ほどの式を書くと
sin(360°×0,5)
=sin(2π×0,5)
=sinπ
=0 となります
つづいて1秒間に10回振動する10Hzのときの0,5秒後を考えてみます。
1秒間で10周期ということは、360°×10=3600°の目盛まで波が描かれています。
そこで0,5秒後の波の高さは
sin{(360°×10)×0,5}
=sin(3600°×0,5)
=sin1800°
=sin(360°×5)
=0
角度の数値は大きくても、結局は5回目にきた360°というだけで、波の高さは元に戻って0です。
これもπを使って書くと
sin(2π×10×0,5) となります。
さらに周波数を高くして、1キロヘルツは1秒間に1000周期です。
また何秒後の値を調べるかは後で決めることにして、仮にt秒後とおくと
sin(360°×1000×t) となります。
ここで t という記号を用いたのは、ここに入る数字が何秒後という時間(タイム)だからです。この式もπを使うと
sin(2π×1000×t)
こうして3つの例をみると、2πの後には1秒間の周期の回数、つまり周波数が書かれている事がわかります。
そこで、周波数もあとでいろいろ変わることを考え、この部分を、周波数を意味するフリケンシーの記号fに置き換えると
sin(360°×周波数×何秒後)=sin 2π f t 秒 となります。
『まず周波数fと調べたい時間tに数値を当てはめて掛け算し、 さらに2πという角度を掛け、出てきた数値(=角度)を計算します。 次にその角度を三角関数表で調べれば、周波数fの正弦波がスタートしてt秒後、 どんな波の高さになっているかを、表す事ができますよ。』と言う事になります。 |
また波の高さを波高値といいます。そこでいろいろな周波数の正弦波の瞬間における波高値を計算してみましょう。
ただし波高値は、最大でもSin90°の1までですし、最小でもSin270°のマイナス1までです。
例1)1kHzの正弦波がスタートして0,5秒たった時の波高値を計算すると
sin(2π×f×t 秒)=sin(2π×1000×0,5)
=sin(2π×500)
=sin0°
=0
この瞬間正弦波はちょうど500周期目の360度のところを通過中です。
特に大切なのは、式の2番目にある2π×500という式を取り除いた事です。
なぜこのようなことが出来るかと言えば、2πの整数倍は、1周期の繰り返しに過ぎないので、0°と同じことを意味しています。
そこで、式を簡単にするためこの部分は無視します。
例2)1KHzの正弦波がスタートして1/16秒たった時の波高値は
sin(2π×f×t 秒)
=sin(2π×1000×1/16)
ここで2πをカッコから出します。
さらに残った数を無視できる単なる繰り返しの整数部分と、無視できない分数部分に分けるため、帯分数にすると
=sin2π(250/4)
=sin2π(62+2/4)
=sin{(2π×62)+(4π/4)}
この式の意味は2πが62個とπが1個あるという事ですから、62周期の後さらに180度進んでいる状態になります。
そこで62周期は無視して、
=sinπ
=sin180°
=0 となります。
これを図で表すと次のようになります。
例3) 2KHzの正弦波がスタートして1/3秒たった時の波高値を計算すると
sin(2π×2000×1/3)
=sin2π(2000/3)
=sin2π(666+2/3)
=sin{2π×666+(4π/3)}
ここでも666周期は無視して
=sin(4π/3)
=sin240°
=−√3/2
=−0,87
1つの角が240度の直角三角形は240=180+60すなわち高さが下向きで底辺とは60度の斜辺を持ちます。
この直角3角形は3辺の長さの比率が、底辺を1とすると斜辺は2で、高さは√3とわかっています。
この状態の積み木はつぎのようになります。
ただし下向きなので、高さは−√3になります。また斜辺は単なる長さなので向きは関係無く、いつも記号はプラスです。
そこで三角関数表を使わなくてもsin240°はsin60°の記号がマイナスになったー√3/2=―0,866とわかります。
波形の様子を図にしてみました。
このようにして、時と共に変化するさまざまな周波数の正弦波の波高値が
sin2πf・t秒
という数字と記号で書ける事になりました。
C) 次元について
しかし良く考えてみるとsinの後に書かれる数字は、本来角度とその倍数だけのはずです。
そこに時間の単位「t 秒」があるのはおかしいのではないでしょうか。
そこで数学の決まりの一つ「次元」について知っておかなければなりません。
2とか3は数の大きさを表していますが、そのあとに単位が付くと一定の量を表します。
単位が付いた数字はその「次元」を持つことになり、計算の中で勝手に消すことが出来ません。
例えば1m(メートル)は「m」という長さの次元を持つので、計算する時は
4m÷2=2m
と答えに次元が残ります。この式は4mを2つに分割すると2mになるという意味ですが
4m÷2m=2
という計算は、答えから次元が消えています。この式は4mの中に2mが2つあるという意味です。
このとき長さの次元であるm同士も
m÷m=1 という式で割り算ができていることになります。
また時間も次元のひとつで
4秒÷2=2秒
という式は、4秒の半分の時間は2秒という意味ですが
4秒÷2秒=2
という式は、4秒の中には2秒という時間が2回あるということで、時間の次元である秒同士が割られて答えから消えています。
そこでf(周波数)の意味を考えてみますと、周波数とは1秒間に何周期あるかを意味しています。
例えば下の図は 1秒間に10周期 の場合です。
1秒間に10周期の場合 |
また、10秒間に20周期変化する正弦波が1秒間に変化する周期の回数は
f=20回÷10秒
=2回÷1秒
このようにfには(÷1秒)という次元が付きますので、周波数とは単なる回数ではなく
f=回数÷1秒
=回数/1秒
という、分母に時間の次元の付いた数値なのです。
そこで周波数 「 f 」 の周期つまり回数は、サイクルの 「 c 」 で表し「秒」は英語のSECONDの 「 s 」 で表せば
f=回数/1秒=c/s (サイクル パー セカンド)
sin2π f t s = sin2π × c / s × t s =sin2πct
ということで、2πf t 秒 は、360度である 2π を c t 倍 しただけの純粋な角度となりました。
さらにしつこく書けば正弦波の式とは
「sin(360度×倍数)」 という実に単純な式でしかないのです。
【6】交流のオームの法則と電力
正弦波は音だけでなく電圧にもあてはまります。交流電圧も直流電圧と同じ電気なので、オームの法則に出てきた掛け算
電流 I × 抵抗 R = 電圧 E
はもちろん、他の2つの割り算式もなりたちます。さらに電力も直流同様に
電圧E × 電流 I = 電力 P で単位はW(ワット)
となります。電気のもとは、直流では電池がありますが、交流の電池というのは無いので交流電源を使います。
【7】交流の電圧
交流電源で一番身近なのは家庭のコンセントでしょう。コンセントからとれる交流は100ボルトで、関東なら50Hzです。
そこで今まで習ったことを使って、コンセントの交流電圧をあらわしてみると
sin2πf t s=sin(2×π×50×t)・・・式の右辺はfの中にある 1/s と t s の s が打ち消しあっていることに注意
ところがこれにはどこにも100ボルトの事が入っていません。
つまり今まで示していた波高値「0、5」とか「0、7」は1ボルトを基準に考えていたのです。
ですから100ボルトのときは全体を100倍して
100×sin(2π×50×t)
となります。そこで100Vに限らず、いろいろな電圧を表すことを考えてsinの前にくる電圧の数字を「A」と置き換えると、この式は
A・sin2πf t s となります。
これで最高「A」ボルトで周波数「f」の正弦波の「t」秒後の波高値は、どうなっているかという、正弦波のほとんど全ての情報がわかるようになりました。
例えば周波数fでAの値が1Vと2Vの正弦波である
sin2πf t s と 2・sin2πf t s
の図を描くと次のようになります
ここで周波数1KHz、電圧10Vの正弦波を例にとって、数式で表してみると、
A・sin2fπt s=10・sin(2π×1000 t)
この式の右辺が示す意味は、「最大電圧が10Vで、1周期360°を1秒間に1000回繰り返している正弦波の、t 秒後の波高値を示す。」
と言う事になります。
【8】ピーク値と実効値
A)ピーク値
100Vの直流と100Vの交流(正弦波)を比べると、たしかに交流は90°で100Vであり、270°でマイナス100Vですが、
0°や180°や360°の時は0Vになっています。
また0Vの付近も100Vには、はるかに至っていません。
これで直流と同じ100Vだと言ったら、毎月数日だけは働くが、あとは適当にお休みしている人と、
全く休みなく働いている人に、同じ給料を渡しているようなものです。
そこで呼び方を変え、交流の場合は「ピーク値が100Vになっている。」と言います。
実効値とは、本当はどれだけ仕事をしたのか分かるようにすることを目的としますから、電力を中心に考えます。
そこで直流のときと同じように1Ωの抵抗を機器のかわりにつなぎ、交流の電源はピーク値1Vの正弦波
電圧E=Sin2πf t s(V)
を使いますが「2πfts」は単なる角度に過ぎないことから、式を簡単にするため、単純な角度の記号「θ」とおきかえて
2πf t s=θ
とすることで電圧は sin2πf t s(V)からsinθ(V) と書き換えられます。
また電流Iもオームの法則を使い、電圧(sinθ(V))÷抵抗(1Ω) から計算すると、
電流=sinθ(V)÷1(Ω)=sinθ(A)
こうして電流Iと電圧Eが決まったところで、電力PはE×Iですから
です。ここで単位を省略してみると、sinθ×sinθというsinθどうしの掛け算がでました。
しかし、世の中には頭のいい人がちゃんといて、数学者により
cos2θ=1-2sin2θ ・・・ 倍角の公式 というのがあって、これを変形した sinθ×sinθ=(1−cos2θ)/2 |
という公式がすでに用意されています。この式を分数の約束で更に変形すると
=(1/2)−(1/2)・(cos2θ)
となります。さらに「θ」を本来の 「2πf t s」 に書きなおすと 「2θ」 は 「2×(2πf t s)」 と書けます。
ところがこれをそのまま計算して 「4πf t s」 と書いても、何の事か良く分かりません。
そこで「2π・2f t s」と書けば、f が2倍になった、つまり周波数が2倍になったことが分かるでしょう。
この書き方に沿ってって式を展開すると、
sinθ×sinθ=(1−cos2θ)/2
=(1/2)−(1/2)・(cos2θ)
=(1/2)−(1/2)・(cos2π・2 f t s)
この状態で式を3つに色分けして、部分ごとに見てみます。
この式が示す最初の (1/2) とは「グラフの線全体を0、5だけプラス側に持ち上げますよ。」ということです。
とりあええず計算の順番上、 (1/2) を後ろに置くとすると
= − (1/2) × (cos2π2 f t s) + (1/2)
と書けます。そこで次の
−(1/2) × (cos2π2 f t s) を先に確かめます。
まず −(1/2) というのはマイナス2分の1を掛けるという単純な意味です。
次の (cos2π2 f t s) という式を絵に描いてみると、波の形は正弦波とまったく同じ形です。
異なるのは、0°のときに1、つまり正弦波の90°のときから始まるような形をしたサイン波に良く似た
余弦波(コサイン波) であるという点です。
ただし、その直前にくっついている (1/2) はコサイン波全体を2で割ることです。マイナス符号は後で処理します。
つまりA・sin2πftsの場合で考えると、Aに相当する数値が1/2=0,5になっていることを意味します。
よって波の振れ幅が元の波の半分の 0,5 になるわけです。
さらに「2fts」の「2f」とは周波数fが2倍になったことを表しますので、波の変化が倍の速さになります。
ですから、周波数が2倍の cos2π 2 f t s という波(青の実線)では、sin波(赤の点線)の半周期分で、すでに1周期が終わります。
一方 −(1/2) は前にマイナスの記号がついているので、波形はプラスマイナス逆になる、つまり絵を裏返し(反転)してやればいいのです。
仕上げとして、後回しにした +(1/2) があるので、全体を0,5だけ上に移動させて、中心線を0,5にします。
これでやっと電力を示す波形が出来ました。
ただし、この絵の縦軸は電圧ではなく、掛け算の答えなので電力W(ワット)を表しています。
この時「山」の半分から上は、「谷」つまり半分から下と同じ形なので、この部分を切り取って谷の中へすっぽり入れてしまいます。
すると、ちょうど 0,5 のところで平らになります
このように ピーク1V の正弦波電圧と、ピーク1A の正弦波電流をかけあわせた正弦波電力は、
平らにならすと 0,5W になってしまいました。
それなら逆に 0,5=(1/2) の平方根を求めれば、実際に有効な電圧と電流を計算することができるわけです。すると、
電圧は√0,5=√(1/2)
=√1/√2
=√2/2
≒0,7(V)
同様に電流は√0,5≒0,7(A)
つまり約70パーセントしかなかったことなりますが、これでやっと直流と肩を並べられる評価、つまり実効値となりました。
じつは家庭のコンセントから出てくる電圧は、すでに実効値で100ボルトです。そこでピークなら何ボルト出ているか計算してみると、
100V=実効値=ピーク値×0,7
ピーク値=100V÷0,7
≒140V この電圧で私たちは感電します。
電圧メータなどの表示は、ほとんどが実効値で表されますので、ピーク値を知りたい時はメータの値を約1、4倍、厳密には√2倍しなければなりません。
【9】コンデンサとコイルという代表的な部品
A) コンデンサ
コンデンサは日本語では「蓄電器」といいます。充電できるタイプの電池、「蓄電池」に似ていますが、電気の貯め方が違います。
電池や蓄電池は電気を化学変化により、物質とそのイオンという別の形にして、貯めています。
これを米作りの農家に例えると、米を金塊や貨幣と交換して持っている状態で、収納場所には困りませんが、再び米に戻すには時間がかかります。
しかし金塊や貨幣ですから、当然お米に変えることができます。
これに対しコンデンサは、電気のまま蓄えます。農家の例でいえば、お米のまま持っているため、大きな倉庫が必要です。
しかしお米そのものですから、簡単に備蓄し簡単に放出することができます。
コンデンサの構造はいたって簡単で、2枚の金属の板をわずかな隙間をあけて向かい合わせに立てたら出来上がります。
ただし金属板同士が触れ合わないよう、わずかな隙間をあけるのは大変なので、間に紙や薄いフィルムをはさみます。
はさむ材料でコンデンサの名前がペーパーコンデンサとかフィルムコンデンサなどといいますし、なにもはさまず空気を使うこともあります。
また金属の板のままでは場所をとるので、薄いアルミホイルのようなものでサンドイッチ構造をつくり、それをぐるぐる巻いて作り上げます。
500円玉2枚の間に1万円札1枚を挟んでも、りっぱなコンデンサですが値段は1万1千円と割高です。
こんな簡単な構造でなぜ電気を貯められるのでしょうか。
まずプラスチックの下敷きの両側から管などを使ってこの磁石の粉をふりそそぎます。
すると磁石のプラス側とマイナス側が引き合い下敷きにくっついてしまいます。
これで下敷きに磁石を貯める事が出来たと言うことになります。
ただし実際の磁石は1つの中にプラスとマイナスの両方を持っているので、ふりそそぐどころか、
その前から「だんご」のようにくっついてしまい、何もできません。
一方電気の場合は、プラスとマイナスがしっかり分かれ、お互いに引き合う磁力の代わりに、静電気と言う力も持っています。
そこで隙間をはさむ2枚の金属の板に電気を静電気の力でためられるのです。
金属板同士の隙間は、狭いほうが静電気の力が強くなるため好ましいのですが、加工が難しくなります。
また、高い電圧がかかると隙間の絶縁体を電気が突き抜けて、放電しやすくなります。
一方、金属の板の面積が大きいほど貯められる電気の量が増えます。
B) コイル
電線は電気を流すための通り道ですが、1本の電線に電気が流れただけでとても弱い電磁石になっています。
強い電磁石にしたいならば電線が何本もあるように見える工夫をすれば良く、ふつうはぐるぐる何回も電線を巻きます。
これをコイルと言いますが、さらに磁気は鉄などのほうが流れやすいので、鉄芯を入れます。
電磁石は電線を鉄芯に巻いただけのコイルですが、電磁石が効率良く働くと、少し別の仕事をします。
通常鉄芯は内部磁界の方向がバラバラで、磁石の性質は起こりません。
しかし電池をコイルにつなげると、内部磁界の方向がそろい、磁石の性質が起こります。
つまりコイルと鉄芯で電力が磁力に変化します。
これでくぎなどをひきつけ持ち上げた後、電池をはずすとくぎが落ちて、磁石ではなくなったことが分かります。
ならばこの時、電力から変化していた磁力は、どこへ行ったのでしょうか。
じつは再び電気になってコイルに戻っていたのです。コイルに電流が流れなくなったら、鉄芯が元に戻ったということは、
鉄芯の気持ちの中で「磁石はイヤだ!もとの普通の鉄に戻りたい。」という力が働いたからです。
鉄はスプリングに代表されるように、磁気だけでなく機械的にも、元に戻ろうとする強固な性格があるようで、「鉄人」などと言う言葉もあります。
その結果N極はNをきらうアンチN極、つまりSの力が起きたのと同じようになります。
S極も同じアンチSとなり、まるで磁石をコイルの中でひっくり返したようになった結果、コイルには逆の向きに電気が起こります。
その後この電気はコイルと鉄芯の間で、磁気になったり電気になったりを繰り返しながら、熱エネルギーになってコイルを温め、やがて消えてしまいます。
このようにコイルは瞬間的に電磁石を作るという形で、電気を貯め、電磁石が鉄に戻る力で発電していることになります。
ですから、もし鉄芯が元に戻らず永久磁石になってしまったら、コイルには電圧が現れません。
コイルがたくさん電気を貯めるためには、大きな鉄芯が必要ですし、巻く電線が細いと、たくさん巻いた時、電線の電気抵抗が増えて無駄が多くなります。
ところで100回も電線を巻くのは面倒なので、100本束ねた電線を1巻きしたらどうでしょう。
残念ながらその時は、各々の電線に流れる電流が100分の1になってしまい、電線は100本巻いてあっても、1回巻いたのと同じになります。
つまり巻く電線の太さが100倍になっただけ、という事です。
もちろんこの時、電流を100倍にすれば100回巻いたのと同じです。
しかしコイルにつなげる電線まで相当太くしないと、電線の電気抵抗が大きくなって実用にならないため、通常そのような事は行ないません。
コンデンサは電気を貯める時と放出する時のプラスマイナスが同じ方向です。
それに比べ、コイルは放出する時、逆向きになっているという両者の相反する性質が、実にうまく機能しあって電気の世界をかたちづくります。
こうしたことを発見した人々の偉業も素晴らしいのですが、それが用意されていた宇宙には感服せざるを得ません。
【10】コンデンサの役割
電池にコンデンサをつないでも2枚の隙間の開いた金属板というだけですから電流はながれません。
しかし最初の一瞬だけはコンデンサを充電するための電流が流れます。
充電が終るとコンデンサの両端は電池と同じ電圧になり、電池がもうひとつ作られ並列に接続されたようになって、電気の流れは止まります。
ここで電池をプラスマイナス逆につないでみると電池のプラスにコンデンサのマイナスがつながり、コンデンサのプラスが電池のマイナスにつながります。
これは電池を2個直列に積み上げて、上の電池のプラスと下の電池のマイナスをショートさせたのと同じになります。
電池を2個直列にした上でのショートなので、最初電流は勢い良く流れますが、しばらくするとコンデンサの電気は放電し終わります。
その後コンデンサに対し逆向きの充電が始まり、今度は2つの電池がさかさまに並列接続されたようになるので、電気の流れは再度止まります。
電圧の向きが交代するのは交流ですから、コンデンサはこのような充電と放電を繰り返し、間接的に交流を流していることになります。
充電と逆方向に放電を開始する。直流は流さず交流だけを間接的に流す。これがコンデンサの役割です。
コンデンサが静電気で充電できる電気の量を静電容量と言います。
【11】コイルの役割
コイルは鉄芯に電線を巻いただけのものですから、電池をつなぐと直流が流れ電磁石ができます。
この時、コイルは電流に抵抗しながらも電磁石にされてしまいます。
電流に抵抗するとは、抵抗が大きくなったと言う事ですが、別の見方をすると、コイルに逆方向の電圧が発生して、
外部からきた電圧を打ち消しているとも考えられます。
一定限度の強さの電磁石ができると、コイルは電流に逆らうのを止めます。
こうなると電流を妨げるのはコイルの直流抵抗だけになり、電流は最大になります。
これと似たスタイルでエネルギーを蓄えるものに、フライホイール(はずみ車)があります。
静止したフライホイールに外部水平力を与えると、最初フライホイールは慣性の法則から、静止状態を守ろうとして、
見かけ上反発する回転力が発生しますが、やがてそれは減少し回転が始まります。
このようにして水平力は回転力として内部に蓄えられ、外部回転力が無くなると、今度は蓄えられた回転力を使い、
回された時と同一方向に水平力を発生できることになります。
こうした発生電流の向きの違いが、コンデンサとコイルとの違いです。
コイルに話を戻して、電池をはずしてみると鉄芯が元に戻ろうとするため、磁化された時と同一方向に発電します。
その後電池を逆向きにつなげるとどちらの電圧も逆向きになっているので電池のプラスどうしをつなげた並列接続のような状態になり、
この瞬間は電流が流れません。
しかし、しばらくすると逆向きの電池と、同じく逆向きのコイルが発電した電圧によって、やや遅れて反発電圧が減少しながら、
逆向きに磁化電流が流れます。
回転中のフライホイールでも反対方向から外部回転力が加わると、強いブレーキとなり、強く反発する逆回転力が発生します。
しかし外部回転力を加え続けると、逆回転力も減少してゆき、静止状態を経て反対方向の回転力が蓄えられるのです。
コイルはそこに流れる電流で電磁石を作りながら蓄電し、電流が減れば鉄の戻る力で、今までと同一電流方向に発電する。
直流は通すが交流は通しにくい。これがコイルの役割です。
またコイルの交流に対する抵抗を自己インダクタンスと言います。
コイルの記号
ところで、この鉄芯にもうひとつ別のコイルを巻いたらどうなるでしょうか。
鉄芯は両方のコイルに対し差別をしないので、2つのコイルに逆向きの電気が作り出されます。
このようにコイルは鉄芯を介して、別のコイルに電気を送る役割もあり、これをトランスといいます。
(トランス)
但し電流が変化しないと、鉄芯が磁力を貯めたり吐き出したりしてくれないので、電流の変化の無い直流は送れません。
トランスについては後ほど詳しく調べましょう。
【12】コンデンサとコイルと交流
コンデンサとコイルは交流に対して反対の性格を持っていそうだと分かってきましたが、もう少し明確にするには、
静電容量や自己インダクタンスの値と、周波数との関係を調べる必要があります。
周波数は「1秒間」の振動回数、コンデンサは電気の貯まる「時間」、コイルは電磁石が発電する「時間」が共通のヒントになりそうです。
さらにコンデンサは静電容量とそこに貯まっている「電圧」で、蓄えた電気の量が決まるのに対し、
コイルでは自己インダクタンスとそこに流れる「電流」で、蓄えた電気の量が決まります。
A)電圧素子であるコンデンサと交流抵抗
1アンペアの電流が1秒間流れたとき流れた電気の量を1クーロンの電荷といいます。
1クーロン=1A×1S
電流を「I」、時間を「t」、電気の量、電荷を「Q」と置き換えて掛け算であらわすと
Q=I×t
この電気を1ファラッドという底面積をもつ水槽つまり1ファラッドのコンデンサに貯めると、電圧が1ボルトになります。
電圧が水位、静電容量が水槽の底面積、電気量が溜まった水量とすると、水量は底面積と水位の掛け算で計算できます。これを電気に直すと、
Q=C×E
と書けます。そこでQの出てきた2つの掛け算を1つに並べると
Q=It=CE
となりますが、この式中 It=CE のところを変形してみると
t/C=E/I
さらオームの法則を思い出すと、この式の右辺
E/I=R(抵抗) ですので
t/C=E/I=R
となります。これはコンデンサの持つ交流抵抗なのでしょうか。とりあえず直流の抵抗Rと区別するため、
交流の抵抗を「X」と置き換えてみると
t/C=X
この式の意味を考えてみましょう。 X はおそらくコンデンサ C の交流抵抗です。
そこで左側の分母 C つまり静電容量を増やすと X は小さくなります。
分子「t」は時間で、これが大きくなるという事はゆっくり充放電する、つまり波の動きが遅いということになりそうです。
以上のことから、コンデンサは交流に対し
@ 同じ周波数なら静電容量が大きいほど抵抗が下がる。 A 同じ静電容量なら周波数が高いほど抵抗が下がる。 |
ということが予測できます。
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ところでQ=CEという式で、電荷Qが水の量、Cが容器の底面積、電圧Eが水の貯まった高さに似ていると書きました。
実際試験管など底面積の小さい容器入っていた水を、お盆に移し換えると、水の量は同じでも、水位がずっと低くなります。
一方コンデンサにおいても同じような事が起きます。
一定の電気が貯まっているコンデンサの電極間を離したり、電極の面積を減らしたりして静電容量を減らすと、
それだけで電極間の電圧は高くなります。
雲は静電気を帯びていますが、大量の雲が夏の日差しで急上昇すると、もう1つの電極である大地に対し、
極めて高い電圧に変化するため、ついには落雷します。
またこうした雲は、低い位置の雲に対しても高電圧を発生するため、雲同士も落雷が起きています。
B)電流素子であるコイルと交流抵抗
コイルとコンデンサのしくみで一番違うところは、コンデンサが電気を電気のまま充電しているのに対し、コイルが電気を磁気に変換して蓄電している点です。
つまり電気を静的に電荷の量として貯めるのではなく、電荷の流れる運動エネルギーを磁気エネルギーとして貯めているといえます。
ですからコンデンサ以上に、交流専用のダイナミックな素子ということができます。
磁石の強さをウェーバー(Wb)と言う単位で表しますが、あるコイルに、電流を1アンペア流して1Wb の電磁石が出来た時、
そのコイルの持つ自己インダクタンスは1H(ヘンリー)だと言います。そこでこの関係を式にすると
Wb=L×I
となります。この式は、1Hのコイルに1Aの電流が流れれば1Wb の磁石になるが、2Aでは2Wb の磁石になることを示しています。
こうしてできた1Wb の電磁石は、電流を切ると、逆方向に電圧を発生しますが、実際は電流が増加すると電源に向かって電圧を発生し、
電流の減少時は逆方向に発電します。
そしてこの電圧は、電流が変化する時間 t 秒の長さによっても変わります。
例えば電圧が変化出来る直流電源を用い、電圧をゆっくり上昇させると低い電圧が、また早く上昇すれば高い電圧が発生します。
その後、電流をゆっくり減少させると低い電圧が、また急に減少させると高い電圧が今までと逆向きに発生します。
電線を切断しても同じで、切断した所に高い電圧が発生して、放電を起こすこともあります。
そこで電流が減少するとき逆向きに発生した電圧を「−E」に、時間を「t」に置き換えて磁力「Wb」との関係を掛け算であらわすと、
Wb=−E×t
となります。Wbに関係する2つの掛け算を並べあわせると、
Wb=−Et=LI
となりますがこの式の中で −Et=LI
−L/t=E/I=R
ここでRを交流の抵抗Xに置き換えて表記すると
X=−L/t
XはおそらくコイルLの交流の抵抗値でしょう。最初にマイナスの記号が付いていますが、交流はもともともプラスになったりマイナスになったりします。
そこでコイルの交流に対する性質だけを調べるために、マイナスの記号を一時無視すると
X=L/t となります。
この式の意味を考えてみましょう。分母の時間が小さくなるというのは電流の動きが短時間で早く変化する、つまり周波数が高くなるらしいことを示します。
また分子はインダクタンスの値そのものです。以上のことからコイルは交流に対して
@ 同じインダクタンスなら周波数が高いほど抵抗が増える。 A 同じ周波数ならインダクタンスが大きいほど抵抗が増える。 |
という、コンデンサとはまったく逆の性質を持っていることが予測出来ました。
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【13】交流抵抗と電流の時間差
A)電圧素子であるコンデンサの電流
電池をコンデンサにつなぐと、まず充電する電流が流れ、@ 電池が2つになったようになります。A
ここで何かの理由により、電池の電圧が次第に減って行くと 、 今度はコンデンサの電圧の方が電池の電圧より高いので、
電流はコンデンサから電池のほうへ逆流します。
この状態をかんがえてみると、電池のプラスマイナスが逆向きになる前に、すでに逆向きの電流が、コンデンサの放電によって電池に向かって流れていた事になります。
正弦波の電圧がコンデンサの電圧より低くなり始めるのは、最初の山の頂上すなわち90°を過ぎた時からですが、同時に電流はマイナスを示し始めます。A〜B
正弦波電圧の数値がマイナスになるのは180°を過ぎてからなのに、電圧が90°になった時点でお先に電流の方はマイナスになり始めています。C
このように、コンデンサに流れる交流電流は、電源のプラスマイナスの逆転より一見進んで流れているように見えるのです。
そこで電圧に対しコンデンサでは電源より電流が90°先に進んでいるのではないかと考えられます。
(@からGへと進み、その後はAへ戻る。)
B)電流素子であるコイルの電圧
コイルはコンデンサと違い両端の電圧ではなく、どれほどコイルに電流が流れたかによって、蓄えた電気の量が決まるので、電流を中心に考えます。
そしてこの時にコイルの両端に発生した電圧が、じつはコイルに掛かっている電圧そのものになります。
まずコイルに電流を流そうとすると、高い電圧が発生します。しかし電流の増加が穏やかになると、発生する電圧も徐々に低下します。
さらに電流の増加が止まると今度は逆向きの電圧が発生して電圧はマイナスになってしまいます。
サイン波で値がマイナスになるのは180度の時ですが、電流の増加が止まる90度の時点でお先に電圧はマイナスになっています。
これらの事からコイルの電圧は電流より90度先に進んでいるのではないかと予測できる事になります。
但しコンデンサの時は電圧の正弦波を基準に考えたので、同様の言い方をすれば、電圧に対しコイルの電流は90度遅れている、
これもまたコンデンサとは対称的な性格らしいとわかりました
このように電圧と電流の波形の角度が90度ずれている事を、「位相が90度ずれる」とか「位相差が90度ある」などと言います。
【14】位相差のある正弦波を数字と記号で書く
正弦波を1番簡単な形で書くと Sinθです。θという点が0度から360度まで移動した時、θの値をSinの後に入れて三角関数表を見ればその時の、波の高さ(マイナスの時もある)が分 かります。
ここで、位相差があるという例として、90度遅れている波形を描いてみましょう。
またこれからは「度」の単位は数式との相性から「°」の記号を多用したいと思います。
スタートは90°からです。このときのθの値は90°なのでそのままではSin90°の値つまり1になってしまいます。
しかし本来はスタート地点なので当然0にしなければいけません。そこでθの値が90°の時0になるように、最初から引いてθ−90°とします。
式にすると
sin(θ―90°)
このようにしておけば、θが90°の時
sin(90°―90°)=sin0°
となって、スタートの位置として正しい数値になります。
ここで90°はπ/2ですから書き方を変えて
sin(θ―π/2) が90°遅れた正弦波となります。逆に
sin(θ+π/2) が90°進んだ正弦波となります。
【15】交流抵抗の値を探し出す手がかり
コンデンサとコイルと交流の関係がいろいろわかってきたところで、いよいよ実際の交流抵抗値をなんとか導き出してみましょう。
It=CE という式を変形して出てきたコンデンサの交流抵抗は
X=t/C
となっていましたが、「t」という時間の実体が何なのか、今一つはっきりしていません。そこでもう一度「t」の基本的な意味を考えてみましょう。
まず1F(ファラッド)のコンデンサに1秒間電流を流し、1V(ボルト)になったら、これは1A(アンペア)の電流が流れていた事になります。
普通なら次の1秒後も1V増えて2Vかと思ったら、意外にも2V増えて、合計3Vになっていたとしたら、次の1秒間は2A流れていたことになります。
さらに次の1秒間ではぐっと減って、なんと0、5Vしか増えていなければ、その間は0、5A流れていたことになります。
この事は、コンデンサ「C」の値を一定にして、時間「t」(この場合は1秒)毎に電圧の増え方がわかれば、時間「t」毎にコンデンサに流れこんだ電流の量が分かることを意味しているのではな いでしょうか。
そこで「t」の長さを、どのような周波数でも平等に対応できるよう、正弦波1周期の、1°に相当する時間にすると、
1Hzではt=1°=(1/360×1)=(1/2π×1)秒
1kHzではt=1°=(1/360×1000)秒=(1/2π×1K)秒
つまり「t」を (1/2πf)秒 と置けばどのような周波数でも1波長を1/360に分解して具体的な電圧と電流の関係が調べられそうです。
【16】交流抵抗を三角関数表から細かく観測する
物質を細かく観測するときは顕微鏡を使いますが、法則がありそうな電気現象は、計算で分析します。
ただし電気現象も細かく何箇所も調べるため、同じような単純計算の繰り返しが多くなります。
A)コンデンサの交流抵抗
測定に使う正弦波電圧は、わかりやすく 1V、1Hz とします。
まず 「 1°」 にあたる時間 「 t 」 を出すため、1秒を360で割ると
t=1秒÷360≒0、002778秒 になります
次に 1°までこの正弦波が進んだ時の、波高値 E は
E=Sin1°=0、01745V
この様子を、電圧と時間の拡大図で見てみましょう。
(スタートから1°までコンデンサにかかる電圧と時間の拡大図)
さらにコンデンサの静電容量C を C=1F として、以前出てきた、コンデンサの電気的機能
C・E=I・t これを変形した I=C・E/t
という式にそれぞれの値をいれると電流 「 I 」 の値は
I=CE/t=1F×0、01745V÷0、002778秒≒6、28A
これが1V1Hzの正弦波を1Fのコンデンサに掛けた時 0°から 1°までの間に流れた事になるので、
0°から 1°までの交流抵抗は 1V÷6,28A=0、159Ω
となりますが、同じ1度にかかる時間 0、002778秒 でも、30°から31°の間で確かめると、
電圧の変化は 0,5V から 0,515V まで、つまり 0,015V となります。
この様子も、電圧と時間の拡大図で見てみましょう。
(30°から31°までコンデンサにかかる電圧と時間の拡大図)
ですから電流 「 I 」 は
I=1F×0,015V÷0,002778秒=5,4A
そこで 30°から 31°の交流抵抗は
1V÷5,4A=0,185Ω
さらに 60°から61°の間で確かめると、0,8660V から 0,8764V に上昇します。
この時の電圧差は 0,0086V となり、電流 「 I 」 は
I=1F×0,0086V÷0,002778秒=3,10A
そこで60°から61°の交流抵抗は
1V÷3,10A=0,322Ω
と増えます。さらにその後を計算してみると、角度が進むほど電流が少なくなり、89°から90°の間では、0,0719Aになります。
そして 89°から90 の抵抗値は 1°の時の約87倍にあたる14Ωとなり、さらに90°のときは電流が一瞬 0 になるので、
単純に考えると抵抗値が無限大ということになります。
(1Fにかかるコンデンサの電圧と、その瞬間の電流の分析結果)
このことから1Fのコンデンサの1Hzにおける交流抵抗は1周期の中で様々に変化しているが、最大で無限大、最小で (1/6,28)Ω である事がわかります。
グラフで線が1度から始まっていますが、0°のときはまだ電圧が無いので、電流は存在しません。
ちなみに90°以降の電流の様子を調べてみると、電圧より90°位相の進んだ、最大6,28Aの正弦波であることがわかりました。
そこでコンデンサの交流抵抗は最小になる 0°から 1°までの値を使います。そしてその時間Tは1周期の360分の1である 1/2πf となります。
こうしてXCは
XC=t/C=(1/2πf)/C=1/2πfC
となります。もっと 0°に近い部分を詳しく調べるために、時間を720分の1秒、つまり角度を sin0,5°としても数値はほとんど変わらず、
実用上問題が無いとわかりました。
このように、ある現象を微細に分けて、変化の度合いを詳しく調べる手法はニュートンが発明し、「微分」と言います。
B)コイルの交流抵抗
コイルにおいては正弦波電圧ではなく、1A、1Hz の正弦波電流が1Hのコイルに流れていた場合で考えます。
sin1°まで、つまり 0,002778秒後 の電流 I はコンデンサの時同様に
I =0、01745A
これによって作られる電磁石の強さは
1H×0、01745A=0、01745Wb
また1°にかかる時間tは
t=0、002778秒
この時間で発生する電圧Eは
―Et=LI
―E=LI/t=1H×0、01745A÷0、002778秒≒6、28V
これが1A流れるコイルの両端にかかっている交流電圧なので、コイルの交流抵抗は
6、28V÷1A=6、28Ω
ただし電流の増加率が少なくなるに連れ、交流抵抗は低下し、電流が最大の時コイル両端の電圧が0Vだったということは、
この時の交流抵抗が 0Ω だったことになります。よってコイルの交流抵抗は最大
XL=L/t=6、28(Ω)
そして 最小0Ω の交流抵抗を持ちます。また時間Tはコンデンサのときと同様
t=1H/6、28Ω=(1/6、28)秒 となります。
(1Fにかかるコイルの電流と、その瞬間の電圧の分析結果)
以上はいずれも周波数1Hzの時の式ですが、いろいろな周波数 「 f 」 の1°に相当する時間 「 t 」 は常に 1/2πf ですから
@ Lヘンリーのインダクタンスを持つコイルの、周波数fにおける交流抵抗:XLは誘導リアクタンスといい
XL=L/t=2πfL
A Cファラッドの静電容量を持つコンデンサの、周波数fにおける交流抵抗:XCは容量リアクタンスといい
XC=t/C=1/2πfC
となりました。1/2πf が時間の次元を持っているのは、f=c/s と、分母に時間の次元を持っているからです。
【17】コンデンサと抵抗をつかって起こる不思議なこと
交流電源から1KHzの正弦波が10V出ていたとして実験を開始します。まず電源に抵抗器をつなぎ、その先にコンデンサをつないで交流電源に戻すとします。
このようなつなぎ方は抵抗とコンデンサの直列回路といいます。抵抗の値を実際に良く使う1kΩとして、コンデンサの容量リアクタンスXCも同じ1KΩにすると
XC=1/2πfC=1/6,28×1000Hz×C=1KΩ
これよりCを計算すると、分母が100万を超えてしまいます。しかし実際の回路では、ほとんどがこのような数値になってしまいますので、
最初からをコンデンサの静電容量は 100万分の1ファラッド=1μF(マイクロファラッド) を使います。
C=1/6,28×1000Hz×1000Ω
=(0,159/1000000)F=0,159μF
1KHzでは抵抗、コンデンサ、どちらも1KΩなので交流電源の電圧は2等分されます。また両方をたすと2KΩとなり、流れる電流:Iは、
I=10V÷2KΩ=0,005A です。
実際の電子回路では0,001A=1mA(ミリアンペア)の単位がよく使われるので I=5mA となります。
次に抵抗とコンデンサの両端にかかっている電圧の実効値を測ればどちらも同じ
E=I×R=5mA×1KΩ=5V になります。
これを交流電圧メータで測れば、実効値に当たる0,7倍の3、5Vを示すはずですが、実効値はどちらも5V近くあります。
5Vをピーク値に換算すると1,4倍の7Vに相当しますが、電源電圧がピーク値10Vのものを2等分したら、
どちらもピーク値7Vあったというのは、一体どう言う事でしょう。
抵抗は交流に対しても直流に対しても動作に変わりはありませんので、謎を解く鍵はコンデンサに流れる電流の位相差にありそうです。
またこれまでの経験から、コイルについても、反対の性格だが似たような事が起こりそうです。
【18】抵抗とコンデンサの複雑な関係
コンデンサと抵抗の直列と抵抗同士の直列はなぜ事情が異なるのでしょうか。
それは抵抗器と、コンデンサには電圧を分割する気など、全く無いからではないでしょうか。
1kHzで1kΩのコンデンサと1kΩの抵抗を直列にして、10V1kHz の正弦波電源をつなぐと、最初はどちらも1KΩなので仲良く半分づつ5Vで電圧を分け合います。
これが抵抗同士ならば、ずっと半分づつで、めでたしめでたしというところでしょう。
しかしコンデンサの交流抵抗とは、サイン波の0度から1度付近 でその抵抗値を示しているだけで、基本的には蓄電器です。
そこで、もしコンデンサにつながった抵抗器の先にもっと高い電圧があったなら、それをコンデンサが見つけて、
「電源側にはもっと高い電圧がある。私の静電容量はもっと充電できるから、それも欲しい!」
とわがままを言ってくるわけです。
抵抗は電圧の高いほうから低いほうに、素直に電流を流す性格なので、コンデンサの電圧が5Vを越えても、
それより高い電源電圧がある限り、電流を流し続けます。
但し、コンデンサはただの欲張りではなく、放電の時、ちゃんとその電圧を抵抗に返すので、抵抗の電圧も7Vと上昇します。
【19】具体的なコンデンサと抵抗の関係
では時間を追ってコンデンサと抵抗の、電圧に関するやりとりを調べてみましょう。
ただし、あまり細かく時間を分けると、計算式ばかりが増えて大変ですから、1周期を 30°ごとに分けた正弦波に似た 階段波 を使います。
具体的な階段波の高さは
30°までは10・sin30°=5V
60°までは10・sin60°=8、66V
90°までは10・sin90°=10、00V
という具合ですが、単純ながら12段階の計算は、けっこう面倒です。
また30°進むのに必要な時間 t は
t=1秒÷360÷1000×30
=83、3μS (μS=100万分の1秒)となります。
まず1kHzで1kΩのコンデンサC=0,159μFと1kΩの抵抗器による直列回路を用意し、ここに階段波の電圧をかけます。
この間、10sin30°にあたる5Vをこの回路にかけてみます。電圧が上昇し始めた時、コンデンサはまだ空ですので充電電流が大量に流れます。
ところが抵抗があるため、オームの法則により電流Iは
I=5V÷1kΩ=5mA これ以上は流れません。
そこで5mAを0、159μFに83、3μS流し続けたとするとコンデンサには何ボルトの電圧が貯まるかを、
CE=It を変形した E=It/C を使って計算します。
このときのコンデンサ電圧をEc1とすると
Ec1=5mA×83,3μS÷0、159μF≒2,62V
ただし実際コンデンサの流れる電流は、コンデンサに電気が溜まるにつれ5mAより減少しますが、放電するときも同じ条件なのでこれで良しとします。
この時1KΩに最大5mA流れていますから抵抗の両端最大電圧Er1rとコンデンサの最大電流を Ic1は
Er1=IR=5mA×1KΩ=5V
Ic1=5mA
.
ということになります。このようにして30°ごとに12回にわたって計算し、それをグラフにしてみれば、実態に近づけそうです。
また階段波は1段1段の上が平らなので、その電圧を電池に見立てて絵にしました。ここまでで第1段階は終了です。
次に30°から60°まで進むと電源の階段波の電圧は 8,66V ですが、この時すでにコンデンサの電圧は 2,62V なので、
コンデンサと電源の電圧差は
8,66−2,62=6,04V
また電源とコンデンサの間には1kΩが入っていますから、コンデンサに流れる電流 Ic2 は 6,04mA です。
そこで30°から60°までのコンデンサ電圧の増加分Eは
E=6,04mA×83、3μS÷0,159μF≒3,16V
これが30°までのコンデンサ電圧2,62Vに加わりますから、60°でのコンデンサ電圧をEc2とすると
Ec2=2,62V+3,16V=5,78V
Er2=6,04mA×1kΩ=6、04V
ここまでが第2段階ですが、さらに90°では電源が最大の10Vになるため、コンデンサと電源の電圧差Er3は
Er3=10V−5,78V=4,22V
これが1kΩに流れるので抵抗に流れる電流Ic3は
Ic3=4、22mA
そこで60°から90°のコンデンサの電圧増加分Eを60°までの電圧Ec2に加えると
E=4,22mA×83,3μS÷0,159μF=2,21V
Ec3=5,78V+2,21V=7,99V
という電圧が90°までにコンデンサに充電されたことになります。ここで第3段階が終ります
90°から120°では8、66Vに電源の電圧が下がり始めますが、コンデンサの電圧はまだそれより低いのでさらに上昇します。
その電圧Er4は
Er4=8、66−7、99=0、67V また電流は Ic4=0、67mA
これによりコンデンサの増加する電圧は
0,67mA×83、3μS÷0、159μF=0、35V
そこでコンデンサの電圧Ec4は
Ec4=7、99+0、35=8、34V
120°から150°ではコンデンサの電圧が電源より高くなるため電流の逆流が始まり、電流にはマイナスの記号がつきます。
Er5=5−8、34=―3、34V 電流は ―3、34mA
これによりコンデンサの電圧低下は
―3、34×83、3÷0、159=―1、75V
Ec5=8、34―1、75=6、59V
以下は省略しますがこれらを表にまとめ、グラフにしてみます。但し Er(V) という電圧値はコンデンサに流れる電流値 Ic(mA) でもあります。
また少しグラフがごちゃごちゃしますが、電源の電圧波形もあわせて描き込み、位相差が分かるようにしました。
電源角度 | 0° | 30° | 60° | 90° | 120° | 150° | 180° |
Er(V) Ic(mA) | 0 | 5,00 | 6,04 | 4,22 | 0,67 | −3,40 | −6,59 |
Ec(V) | 0 | 2,62 | 5,78 | 7,98 | 8,43 | 6,55 | 3、0 |
電源角度 | 210° | 240° | 270° | 300° | 330° | 360° | 390° |
Er(V) Ic(mA) | −8,10 | −7,54 | −4,92 | −1,01 | 3,18 | 6,51 | 8,10 |
Ec(V) | −1,12 | −5,08 | −7,65 | −8,18 | −6,51 | −3,10 | 1,14 |
今回は30°ごとの階段波である事と、電圧投入直後のショック状態(過渡現象という)も計算に出てくるため、
抵抗とコンデンサに発生する電圧は 120°や210°などで 8V 程度と高めに算出されました。
このように電圧10Vの正弦波を抵抗とコンデンサで分割しているのに、どちらも5V以上になる事が見てとれます。
さらにコンデンサの電流の位相が、コンデンサの電圧より90°、電源電圧より50°近く進んでいる様子もわかります。
今回は計算例を示すため、お見せする式の量を減らす必要があったので 30°ごとに調べました。
しかし実際に 10°ごとに調べてみると、360°を過ぎたあたりから7Vに落ち着いてゆくのがわかります。
そしてこの時流れる電流は
7V÷1KΩ=7mA となり
またこれだけの電流が、10Vの正弦波電圧に抵抗とコンデンサの合成回路をつないだ際流れたので、その交流に対する合成抵抗は
10V÷7mA=1、4KΩ となりました。
この合成抵抗をインピーダンスとよびますが、RとXCが1kΩ対1kΩの時、合成されたインピーダンスの値が1,4kΩという事は、
1対1で直角を作る二等辺三角形の、斜辺の長さが√2=1、41である事を思い起こさせます。
またコンデンサの電流が 50°電源より進んでいる点も、2等辺3角形の斜辺の角度が45°である事を思い起こさせます。
つまり直角三角形の底辺を抵抗、リアクタンスを高さとすれば、その時のインピーダンスは斜辺に当たり、電流の位相は斜辺の角度になるのではないかということです。
そこで1対√3で直角を作る三角形の斜辺が2である事を念頭に、コンデンサのリアクタンスを1KΩ、抵抗を√3KΩとして、30°おきに同様の計算をしてみれば、
コンデンサと抵抗でできた合成抵抗は2KΩに近い値が出るかもしれません。計算は省略しますが答えは2、15KΩでした。
さらに直角を構成する辺の比率が、3対4の直角三角形の場合、斜辺の長さは5なので、抵抗を3KΩ、コンデンサのリアクタンス4KΩとして、30°おきに計算すると、答えは5,3KΩでした。やはりどうもこのあたりに答えが潜んでいそうです。
コンデンサやコイルと抵抗とで構成する合成交流抵抗=インピーダンスは「Z」で表し、単位はΩですが抵抗RとリアクタンスXの組み合わせ「R+X」で表記します。
Z=R+X
【20】インピーダンスとピタゴラスの定理
まだ抵抗とコンデンサの関係しか調べていませんが、それでも合成されたインピーダンスは、底辺を抵抗、高さをリアクタンスとした直角三角形の斜辺らしいことがわかりました。
もしそれが正しければ、とても役に立つのがピタゴラスの定理です。
ピタゴラスの定理は、直角三角形の直角を構成している2辺を、それぞれ2乗してから足し合わせた答えが、斜辺の2乗だと言うものです。
代表的な例は3辺が、3対4対5を持つもので、3×3+4×4=25=5×5 となります。
つまり抵抗値とリアクタンス値がわかっているとき、
@ 底辺を抵抗、高さをリアクタンスとして斜辺の長さをピタゴラスの定理で計算すれば、抵抗とコンデンサの合成インピーダンスがわかる。
A 斜辺の長さと高さの比率に合うsinθの値を三角関数表で見つければ、その角度が電源と電流の位相差になる。
ということになります。そこで30°おきで調べた時、あまり予想と合っていなかった、3対4対5の直角三角形の場合を例に、今度は10°おきに調べてみます。
リアクタンスは先ほど同様、1kHzの時の数値で考えます。
この比率で長さ3の辺をコンデンサのリアクタンス1kΩとすると、長さ4の辺は抵抗器で抵抗値は4/3kΩ、となります。
また5の辺は合成インピーダンス5/3kΩ=1,667kΩです。
もしこれに10V1kHzの正弦波電圧をつなげると流れる電流 Iとリアクタンス1kΩのコンデンサに発生する電圧Ecは
I=10V÷1,667kΩ=6mA
Ec=1kΩ×6mA=6V
斜辺の傾斜37°(三角関数表より)
となるはずです。
こうした期待を胸に、先ほど行った計算を10°毎に分割して行うと
Ec=6,19V
斜辺の傾斜35°
という事がわかりました。このような実験結果から、先ほどの
@
辺を抵抗、高さをリアクタンスとして斜辺の長さをピタゴラスの定理で計算すれば、抵抗とコンデンサの合成インピーダンスがわかる。
A
斜辺の長さと高さの比率に合うsinθの値を三角関数表で見つければ、その角度が電源と電流の位相差になる。
という事の確信が深まりました。
【21】コイルと抵抗
コンデンサについて、いろいろ調べてきましたがコイルでも同じような事が起こるでしょうか。
まず1kHzでXL=1KΩのリアクタンスを示すコイルのインダクタンスLを計算します。
1K(Ω)=2πfL=6,28×1K(Hz)×L(H)
L=1K÷1K÷6,28=0、159H=159mH
電圧は前回同様変化させますので、今回もインピーダンスが1、667kΩ近くになれば予測があたった事になります。
ここで以前出てきたコイルと電圧等との関係式 「LI=―Et」 に再登場してもらいます。
この式を変形すると
I=―Et/L となります。
これだけの条件を用意して実験を始めましょう。最初に5V電圧が立ち上ったとき、コイルは無限大の抵抗を持ちますので、抵抗に流れる電流はゼロとなり、
コイルには5Vがそのままかかります。しかしやがて磁化電流が流れますがそれまでの反発電流Iは
I=―5V×83,3μ/159m=―2,62mA
一方はコイルが磁化されたとき流せる抵抗の最大電流は
5V÷4/3KΩ=3、75mA
そこでこの時抵抗に流れる電流は
3、75mA−2、62mA=1、13mA
ともあれ、この電流が4/3KΩに流れるので、抵抗の両端の電圧は
1、14mA×4/3KΩ=1、52V
この電圧を電源の電圧から引けば、
5−1、52=3、48V
これが30度における磁化完了時のコイルの電圧となります。以下は省略しますがこのような計算の結果
Z=10÷6,075=1,646KΩ
となって、1,667kΩに近い値になりました。コイルについてもピタゴラスの定理が通用しそうです。
【22】コイルとコンデンサの電流で起こる人生劇場
A)直列共振
計算によって390°くらいまで1KHzで1KΩのリアクタンスを持つ、コイルとコンデンサの電流波形を作図してみると、電流0の線を中心に、上下で対称になっています。
この事から、もしコンデンサとコイルを直列につなげ、その両端に1KHzの交流電源で電流を流したならば、片方がプラスの電圧を発生したとき、もう片方がマイナスの電圧を発生して、
両方を加算した電圧はいつも0Vということになります。
電流を流しても電圧が発生しないのは、その周波数の時だけ抵抗値がほぼ0Ωということで、これを直列共振現象といい、またその周波数を共振周波数といいます。
ただしこの時、電圧0Vというのはあくまで電源から見た0Vであって、コイル自身はプラス1000V、コンデンサ自身はマイナス1000Vという事もあります。
これは「一見良好な雰囲気でも、人知れず激しい対立が繰り広げられている離婚直前の夫婦。」というのに似ています。
別の見方をすると、コイルとコンデンサが直列になっていれば,周波数が低過ぎると、コンデンサのリアクタンスXCが大きいので電流が流れず、
周波数が高すぎてもコイルのリアクタンスXLが大きく、やはり電流が流れません。
共振周波数はちょうどその中間点で、急に抵抗が下がる場所といえます。
B)並列共振
さらに、コイルとコンデンサを並列につなぎ、その両端に電圧をかけてみます。
すると片方がプラス方向に電流を流そうとするとき、もう片方がマイナス方向に電流を流します。
これはあたかも、コイルとコンデンサが両手をつないだ輪の中だけで電流のやり取りをしている、「親密な恋人同士のあいだに、何者かが割り込もうとする余地はない。」
と言うのに似ています。そのため共振周波数に限り、電流が入り込めません。
この状態を並列共振現象といい、抵抗値は共振周波数でほぼ無限大になります。
別の見方をすれば周波数が低すぎるとXLはどんどん低下して何も抵抗が無い状態になり、高すぎればXCが低下して、やはり抵抗が無くなります。
共振周波数はその中間で、急に抵抗の増える場所なのです。
共振は共鳴、固有振動、などとも言い、電気にとどまらず、物質や精神的な部分にもおこります。
「ナイスなダジャレを言ったのに、だれも笑ってくれなかった。」というのはそれを聞いた人たちの笑いの共振点とズレているからです。
共振の条件は XC=XL ですが、この時 XC=1/2πfC XL=2πfL ですから式を作ると
1/2πfC=2fπL
ここから周波数fを出すように式を変形すると
f×f=1/2π×2π×C×L
f²=1/4²πCL
f=1/2√πCL
となり、最後の式にCとLの値を当てはめると、共振周波数fが計算できます。ところがこれだけでは実用的ではありません。
電気回路は上方なら「使えてなんぼ」であり江戸では「使えなきゃなんねえ」のです。そこで出てくるのがQという係数です。
【23】共振回路につきもののQ
共振回路の「役割」は、特定の周波数で、急に抵抗が大きくなったり小さくなったりする事を利用した、「選択機能」にあります。
テレビのチャンネルがたくさんあっても、アンテナやアンテナからのケーブルが一本ですむのは、ケーブルに入ってきた様々な電波の中から、目的の周波数の電波を、テレビが選択しているからです。
そのような回路では、どの程度の電流や電圧で回路が働いているかが重要になります。
テレビが電波を選択するチャンネル切り替えで、例えば100Vの電圧で10Ωくらいのリアクタンスによる共振回路を作ったら、その前後の電流Iは
I=100V÷10Ω=10A
その時の電力Pは
P=100V×10A=1000W
となります。
これではチャンネル切り替えだけでオーブントースター1台分になってしまい、電気代が勿体無いなどと言う以前に、発熱で火災の危険すらあります。
逆に、50Ω以下の抵抗で構成されている電気回路で2万倍、つまり1000KΩのリアクタンスによる並列共振回路を持ってきて、「共振周波数では抵抗が無限大になります。」
などといっても、50Ωからみたら1000KΩも無限大もあまり変わりません。
そこで、まわりにつながる回路の、だいたいのインピーダンスを単純な抵抗として見て、その抵抗の値をRとするとき
R=XC=XL
であるように共振回路を作れば、その共振回路のQは1だといいます。
A)直列共振回路のQ
直列共振回路でQが1の時は、共振周波数でRとXLやXCの大きさが等しいのですが、もしRの値が10倍になると、それと同じリアクタンスを持つためには、
コイルもコンデンサも共振周波数とは別の周波数でその値を実現するしかありません。
例えばXC=1/2πfC でXCを10倍にするにはCと2πは変えようが無いので、fを10分の1にします。
同様にXL=2πfL でLと2πは変えようが無いのでfを10倍にすれば良い事になります。
この様子をグラフにすると、下に絵のようになり、共振回路の谷の幅が、広がった事を意味します。
Qは本来共振点の、山や谷の鋭さを表しているので、この場合はQが下がったことになります。
直列共振回路につながる回路のインピーダンスをRが大きくなったとき、Qが小さくなったということは、RはQに反比例するということで、Rが分母に入った式が出来ます。
共振回路のQは
Q=XC/R=XL/R
この式の意味は、
「直列共振回路のQを上げるには、共振回路を構成するコイルやコンデンサのリアクタンスを回路のインピーダンスより高く設定する。」
という事なります。
B)並列共振回路のQ
並列共振回路でもし抵抗Rが10倍になると、XCが10倍になる周波数は10分の1に、またXLが10倍になる周波数は10倍の場所に移ります。
共振回路において、インピーダンスが上昇する山の裾野が狭まるのは、Qが高くなる事を意味します。
Rが
Q=R/XC=R/XL
この式の意味は
「並列共振回路のQを上げるには、共振回路を構成するコイルやコンデンサのリアクタンスを、回路のインピーダンスより低く設定する。」
Qは共振回路にとって、どう役に立つかを決める大切な数値ではありますが、まわりの回路や入手可能な部品の数値に左右されるため、ほどほどに近い値で妥協するのが普通です。
実用的なQは0、5から数百くらいになります。
またQは自然現象や人の精神状態にもあって、「何気なく言った一言が人を激怒させた。」などという場合、その言葉がその人の怒り、恐れ、悲しみの共振点であり、Qの値がかなり高い事を 示します。
この先は製作中です
【24】フィルター
フィルターという言葉で、1番身近なのはタバコのニコチンを除去するフィルターですが、この言葉の中には「選択して除去する」とか「限定して除去する」というように、
2つの動作をまとめた意味が含まれています。
オーディオ回路のフィルターはほとんどが抵抗とコンデンサで構成され、コンデンサのリアクタンスの値と抵抗の値が等しくなる周波数で、
電圧が2等分されるという性質を使います。この時の 周波数をカットオフ周波数といい、フィルターの効果が現れ始めるポイントを示します。
この状態を、カットオフ周波数をf、抵抗をR、コンデンサの容量をC、コンデンサのリアクタンスをXCを使った式で表すと、XCとRが等しいということは
XC=1/2πfC=R
となりますが、これをいろいろ変形すると
f=1/2πCR
C=1/2fπR
R=1/2πfC などができます。
フィルターはオーディオ回路の中で、交流の除去、直流の除去、高音や低音の調整などに使われます。
A)交流の除去とハイカットフィルター
整流した後コンデンサによって直流に近づけても交流成分は残ってしまいます。そこでコンデンサの先に抵抗をつなぎ、
もう一度コンデンサをアースに落として充電させる事によって、更に直流 に近づけます。
これを電源フィルター、またはリップルフィルターといいますが、抵抗があまり大きいと大電流時、その抵抗器で電圧低下が起こるので、
最大電流時で電源電圧の10パーセント低下を基準に します。
電源の電圧10V、最大電流100mAとすると、抵抗Rは10Ωで1Vの電圧低下が起こります。
電源周波数fを50Hzとすればカットオフこれ以下が効果的になります。
コンデンサの静電容量をCとするとリアクタンスXCの値が10Ωの時とは
XC=1/(2π×50×C)=10(Ω)
C=1/2πfR=1/(2π×50×10)
=1/1000π=159(μF)
この時リップルは半分になりますが、さらに効果を出すにはカットオフ周波数を10分の1の5Hzに設定すればよく、
そのためにはコンデンサの容量を10倍の1600μFにします。
この時50Hzに対するコンデンサのリアクタンスは1Ωで、リップルは10分の1になります。
さらに、このリップルフィルターは、コンデンサCが159μFの時、50Hz以上をカットするハイカットフィルターとも考えられ、
10Ωの回路につなげるとQが1になります。
B)直流の除去とローカットフィルター
こんどは逆にどの程度のリップルがあるのかだけを検出したいとすれば、整流された後のコンデンサにもう1つコンデンサCをつなぎ、
その先に抵抗Rをつないでアースに落とします。
コンデンサは直流を流せないので交流のみを取り出せますが、これをローカットフィルターと考えCとRで減衰し始める低域の周波数fを設定できます。
リップル信号の検出を目的とするため、あまり電流の量を必要としない、10KΩ程度のインピーダンスの回路につなげられることを前提とし、fを50Hzとすれば
C=1/2πfR=1/(100π×10K)=0,159(μF)
C)低音上昇とローパスフィルター
ローパスフィルターはハイカットフィルターと似ていますが、カットオフ周波数にあたるものが2つあります。
ひとつはハイカットフィルターのカットオフと同じ働きをして低音の方から見るとこの周波数より高い周波数は低下し、「ロールオフ」といいます。
もうひとつはその低下を止める周波数で、高い周波数の方から見ると、ここより低い周波数から上昇がはじまるように見えるので、「ターンオーバー」といいます。
回路のインピーダンスを10KとしてQを10にすると最初のハイカットフィルターの抵抗R1は100KΩで、ロールオフを20Hzとすると、必要なCは
C=1/2π・20・100K≒0,04μF
このままでは20Hz以上の周波数で電圧はどんどん低下しますが、それを止める周波数ターンオーバーを100Hzとすると、
コンデンサとアースのあいだに抵抗R2をいれます。このときR2が100HzでXCと同じになればそれ以上高い周波数で電圧が低下しません。
100HzでのXC周波数に反比例し、20Hzの時の5分の1となります。100KΩの5分の1は20KΩですので、R2も同じ20KΩにすれば良い事になります。
D)高音上昇とハイパスフィルター
ハイパスフィルターはローカットフィルターの「ロールオフ」と、電圧の低下を止める「ターンオーバー」の抵抗から成ります。
回路のインピーダンスを10KΩとしてQを10とすると、ローカットフィルターのロールオフ周波数を10KHzで100kΩのリアクタンスを持つコンデンサのCは
XC=1/π2・10K・100K=0,000159μF
=159pF(ピコファラッド)
ピコはマイクロのさらに100万分の1で、1兆分の1を表します。この後に100KΩの抵抗でアースに落とすと、ローカットフィルターが出来ますが、
このままでは10KHz以下の周波数でどんどん電圧が低下しますのでそれを止める周波数を4KHzとします。
4KHzにおける159pFのリアクタンスは2、5倍の250KΩですので、250KΩの抵抗を159pFに並列につなげると、
それ以下の周波数で電圧の低下が起きません。
【27】トランスとコイル
トランスは、真空管アンプにとって最重要部品です。トランスとコイルは言葉の使い分けが微妙で、通常はひとつの鉄芯(コア)に複数のコイルが巻いてあるものをトランスと言う場合が多く、各コイルの入力側を1次側、出力側を2次側と呼びます。トランスの1番目の役割はインピーダンスの変換にあり、電圧の変換もこれに含まれます。もう1つの役割はアイソレート(分離、絶縁)で、位相の反転もこれに含まれます。
A)インピーダンスと電圧変換
トランスの1次側と2次側の電圧比はコイルの巻き数比と一致します。例えば1次が100回で、2次が200回巻いてあるトランスの1次側に10Vかければ、2次側には20Vあらわれます。た だしトランスの中では電気、磁気、電気と変換されるので、理想状態では電力の損失はありませんが、実際はコアが磁化される時、コア材の持つクセと、巻線の直流抵抗、巻線どうしによる静電容量で損失が起きます。
そこで理想状態のトランスがあったとして、1次側10Vをかけ1A電流が流れれば1次側の電力Pは
P=10V×1A=10W です。
2次側は20Vなので、10Wの電力がそのまま2次側に伝わるとすれば、流れる電流Iは、
I=10W÷20V=0,5A と1次側の半分の電流になります。
この時1次側のリアクタンスXL1は
XL1=10V÷1A=10Ω
一方2次側のリアクタンスXL2は
XL2=20V÷0,5A=40Ω
このように巻数比が2倍になるとリアクタンス比は4倍になります。一般的には巻数比の二乗がリアクタンス比となります。ところでコイルのリアクタンスXLを算出するには XL=π2fL です。この式の右辺と左辺の関係から、リアクタンスXLが4倍になる時、「L」すなわちコイルのインダクタンスも4倍になる事がわかります。
つまりコイルの巻数を2倍にすると、インダクタンスは4倍になります。
B)アイソレートと分離と位相反転
トランスは電気を1回磁気に変換して、間接的に電気を発生させるので、コイルどうしは電気的に交流、直流、どちらに対しても全く絶縁されています。これがアイソレートです。また電流が変動しないと2次側に電圧が発生しないので、直流を含んだ交流から交流部分だけを分離することが出来ます。
さらに通常トランスのコイルは巻き始めから右回りに1次側を巻いたら、2次側も同じ向きで巻きます。この状態で両方共、電線の巻き始めにマークを付け、マークの付いた1次側と2次側の線どうしをアースとすれば、両方の巻き終わりで電圧の位相が同じになります。
位相が同じとは、1時側が正弦波のプラス側になっている時、2次側も同じプラス側になっているという事です。これを逆に利用して、2次側の巻き終りをアースに落とせば、逆相の交流電圧が2次側の巻き始めから取り出せます。これが位相反転です。
【28】トランスの位相の回転(変化)
トランスは重しの代用やオブジェに利用される場合を除き、それが単体で使われる事は無く、必ず他のインピーダンスをもった回路が接続されます。またトランスはコイルから成り立っています。以上の2点から、トランスの使用には接続インピーダンスを抵抗と見たてた、コイルと抵抗の直列回路と見なす事が有効だと予測できます。
抵抗とコイルの直列回路では抵抗の大きさを直角三角形の底辺、コイルのリアクタンスを直角三角形の高さとして作る斜辺が合成インピーダンスです。この時、電流の遅れは底辺と斜辺で出来た角度θで表せますが、周波数が変化した時、この角度がどう変化するか考えてみましょう。
159mHのインダクタンスがあるコイルは、1KHzで1KΩのリアクタンスを示します。このコイルと1KΩの抵抗による直列回路の場合抵抗とリアクタンスで作られる直角三角形は、1対1の二等辺三角形なので斜辺の角度と長さは45°と約1、4になりますが、インピーダンスで言えば「1、4KΩで電流の遅れる角度45°」となります。
これを略して書く時には
Z=1,4K∠45° 「1,4キロ、角(かく)45度。」
または Z=1,4K∠(π/4)「1,4キロ、角(かく)4分のパイ。」
などと書きます。
ここで周波数fが2倍の2fになったとすると、コイルのリアクタンスは「2πfL」から「2π2fL」 つまりリアクタンスも2倍になります。リアクタンスは高さなので、高さが2倍になった時の斜辺を計算しますが、ここでピタゴラス先生に登場していただきます。斜辺の計算をすると
√(1×1+2×2)=√5≒2,24KΩ
角度θはまだわかりませんが、高さ2、斜辺2、24と2辺の長さがわかったので
Sinθ=高さ÷斜辺=2÷2,24≒0、89
という式はたてられます。そこで、この式のθの値を、三角関数表を使って求めてみましょう。
三角関数表でSinθ=0,89の時、θがどの値を示すか0度から順に調べてゆくと、Sin63°の時に値が0、8910と書いてあり、これが1番近い値だと考えられます。これによりθ=63°と近似値を出すことが出来ました。
以上のことから1KΩと159mHによる直列回路の2KHzでのインピーダンスZは
Z=2、24K∠63°
同様に他の周波数でも調べると
100Hzでは Z=100∠6°
500Hzでは Z=1,12K∠24、5°
10KHzでは Z=9,96K∠85°
100KHzでは Z=99,9K∠89°
このように1KHzでコイルのリアクタンスを決めるとオーディオ帯域だけでも約0°から90°という大きな位相角の回転と100倍以上のインピーダンスの変化が起きます。
【29】トランスの位相の安定化
位相を安定化するには、10KHzと100KHzであまり差が出ない事が、ヒントになりそうです。そこで最初から基準の周波数を100分の1にして、10Hzで考えてみますと、10Hzで1KΩのリアクタンスをもつには、100倍のインダクタンスがあれば良い事になります。
159mHの100倍は15、9Hになりますが、このコイルの20Hzや100Hzのインピーダンスは前の章の2KHzや10KHzの計算がそのまま当てはまります。そこでいろいろな周波数で計算すると
Z(20Hz) =2,24K∠63°
Z(100Hz) =9,96K∠85°
Z(1KHz) =99,9K∠89°
Z(10KHz) =999,9K∠89°
Z(100KHz)=9999,9K∠89°
このように基準周波数を下げる事によって1KHz以上はほとんど位相が変化せず、100Hzにおいて14°、20Hzでは36°程度の変動ですみました。
こうして位相については、なんとか安定させたものの、インピーダンスは相変わらずどんどん上昇しています。インピーダンスが上昇すると同じ電圧をかけても電流が流れないので、周波数が高いほどコアを磁化しにくくなるはずです。これでは高い周波数ほどトランスの1次側から2次側への電力転送性能が低下する事になってしまいます。トランスの転送性能が周波数によってどのような伝達特性を現すのか綿密に調べたグラフを、トランスの周波数特性といいます。
【30】トランスのインピーダンスの安定
インピーダンスの上昇は、誘導リアクタンスが周波数に比例して上昇するからですが、トランスはただのコイルではなく、2次側のコイルがあります。そこで1次側と2次側に同じ巻数だけコイルを巻いて、2次側のコイルに10KΩの抵抗をつなぎます。
交流電源から1次側に10V、1KHzの交流電圧をかけると、1次と2次の巻数比が1対1ですから、2次側にも10V、1KHzが現れます。よって10KΩの抵抗には1mAの電流が流れる事になります。ちなみに2次側につながる抵抗を負荷抵抗ともいいます。
ここで周波数が10KHzになっても電圧は巻数の比率できまるので、やはり2次側には10Vが発生し、10KΩの抵抗に1mAの電流が流れます。なぜコイルのリアクタンスが上昇しても電力の伝達が損なわれないのでしょうか。まずは仮説を立てます。
周波数が高くなってリアクタンスが上昇し、電流が流れにくくなるのは、それだけ大量の磁化をコアに対し行おうとするからだとすれば、同時にそれは大量の発電能力がコアから発揮されると言う意味ではないでしょうか。
別の表現をすれば、1次側で抵抗を増やそうとしても2次側が効率良く磁力を電力に変換してしまうので、鉄芯の「磁石はイヤだ!」という抵抗があまり増えない、即ちリアクタンスの上昇が無視できるのではないでしょうか。そこで以前出てきた
LI=Wb=Et
という式の意味をもう一度考えてみると、
「LヘンリーにIアンペア電流が流れた時に作られた磁石は
Eボルトの電圧をt秒間発電できる。」
と考えてきました。そしてこの時のtとは「1/2πf」でした。
ここで、なぜこのような記号の入った分数が時間なのかを、おさらいの意味を含めて説明します。周波数fというものは1秒間に何回振動しているかを表す記号であって、
f=振動回数/1秒=振動回数÷1秒
と書けます。このfという記号の性質をtあてはめてゆくと、
t=1/2πf=1/(2π×振動回数÷1秒)
=1秒/(2π×振動回数)
つまり1秒間を2πと振動回数で割った「時間」がtなのです。
例えば10Hzではf=10回/秒ですから、これを先ほどの式にあてはめて
t=1/2π×10/秒=1/62,8=0,0159秒
そこでもとの式に戻ると、
LI=Wb=Et に t=1/2πfをあてはめると
Wb=E/2πf
となります。これで電圧と電流と周波数の関係が計算できそうです。
この式を変形すると
E=2πfWb
この式の意味を考えてみると、磁石の強さWbが一定なら、例えば周波数fが2倍になると電圧Eも2倍になります。つまりfが高くなるほど発電される電圧Eが大きくなると言えます。
つぎに電圧Eを一定に保つ時、周波数fが2倍になるとWbは半分になります。これは周波数fが高くなるほど、磁石の磁力Wbが弱くても電圧に変化が無いと言う事です。
しかし磁力の強さは電力がコイルによって変換されたものなので、磁力が弱くなったのでは、周波数の上昇と共に、トランスの伝達効率が低下するはずです。それにもかかわらず、実際には低下が起こりません。これはコア以外の何かがコアの代わりをして、2次側のコイルに磁力を伝達しているからではないでしょうか。
実はコアそのものの磁化による電力の伝達は低下しているのですが、コアが作る周りの空間が磁化されて、磁力による電力の伝達を手伝いはじめるのです。こうして本来一定のインダクタンスを持ったトランスには、その周りにもっとインダクタンスの低い、トランスとしての伝達路がいくらでも発生して、電力を1次コイルから2次コイルへと伝達出来るのです。ただし低いのはあくまで伝達路のインダクタンスであって、トランスのコイルそのもののインダクタンスが低下しているのではありません。
このような事は1次コイルだけのときには何の意味も無かった事で、2次コイルがあって、そこから電力を取り出そうとした時、初めて作用する現象です。
さらに、周波数が高くなるほどコアの責任が軽くなるという事を、この現象は意味します。周波数が高くなるほど磁力が発生しやすいという事は、コイルの巻き数を減らしたり、コアを小さくしたりしても良いということになり、トランスそのものが小型に作れる事を意味します。
実際、さらに周波数が高くなった電波を扱う高周波回路では、もはやコアが不要になることが多くなります。コアが無いコイルでは何が磁化されるかと言うと、空間が磁化され、空間が元に戻ろうとする力が、磁力を電力に戻します。ただし空間とは空気の事ではなく、地球上も含めた宇宙空間です。さらに周波数が高くなると、コイルを「巻く」と言う事も不要となって5センチ位のただの電線でもコイルの役割をはたします。ですから長い配線は高周波では御法度です。
宇宙空間の磁化で一番身近なのは衛星放送でしょう。何も無い宇宙空間を電波や光が伝わるのは、何も無いはずの場所が、なぜか変化しているからなのです。
【31】トランスの周波数特性の変化
A)低域の低下
15、9Hのインダクタンスが10Hzで1KΩのリアクタンス値を示す時、電源側のインピーダンスが10KΩならば、1KΩどうしで電圧は2等分されてしまいます。2等分と言っても電圧は
10÷√2≒7,07V
ありますが、1対1の巻数のトランスでは、2次側も同じ電圧が出てきます。これを電力で考えてみましょう。
電圧が10Vの時負荷抵抗が10KΩならば流れる電流が1mAであることから、電力Pは、
P=10V×1mA=10mW
7,07Vの時は電流が7,07mAになるので
7,07V×7,07mA=5、00mW
この時の1KΩの抵抗は1次側につながる回路のインピーダンスの代わりです。そこでトランスのリアクタンスが1次側につながる回路のインピーダンスと同じになる時、伝達できる電力が半分になってしまう事がわかります。回路のインピーダンスがさらに高くなった時は、もっと高い周波数から低域の低下が始まります。
たとえば内部抵抗が10KΩの時は、インダクタンス15,9Hのコイルのリアクタンスが10KΩになる100Hzから、電圧が低下する事になります。
電源側のインピーダンスを電源の内部抵抗といいますが、内部抵抗が高くなっても損失を出さないよう、充分なリアクタンスを持つためには、大きなインダクタンスが必要になりますが、それには巻数を増やす必要があります。巻数を増やすだけではコイルの直流抵抗も増えてしまうので太い電線を使う必要があり、トランスはますます大きく重くなります。
B)高域の低下
理想状態のトランスでは周波数が上昇しても1次側と2次側の電圧比は巻数だけで決まりますが、実際のトランスでは、コイルの巻数が増えると、インダクタンスが増える半面、欠点も出てきます。まず電線の長さが増えるので直流抵抗がふえます。電線は銅を中心に作られていますが、電気抵抗が全く無いと言うわけではなく、僅かながら抵抗を持ちます。
それが何百メートルにもなると、電気抵抗がふえます。そこで電流が多く流れたとき、コアの磁化と関係無い電圧が発生して、トランスの伝達に損失が起きます。
また巻線は電線どうし金属を近づけた状態なので、僅かながらもコンデンサを構成します。これが大量の巻線では大きな静電容量となってコイルに並列のコンデンサをつないだ状態になります。このコンデンサを巻線間容量と言い、電源の内部抵抗と組み合わされてハイカットフィルターを作ります。
例えば巻線間容量を500pF、電源の内部抵抗を10KΩとすると、これにより作られたハイカットフィルターのカットオフ周波数fは
f=1/2πCR=1÷6,28÷500pF÷10kΩ
≒31,8KHz となります。
この数値はオーディオ回路として微妙なところです。もう1つの要因はコアの材質にあります。コアは電流が流れて磁石が出来るまで、材料によって反応のスピードが異なります。反応の遅い材料ではモグラたたきが早くなった時のように、動きに着いて行けず、ぼんやり見ているだけという状態になりますから、うまく高域を伝達する事ができません。
【32】トランスの共振とQ
また巻線間容量とインダクタンスも共振回路を構成しますが、その周波数:fはXLとXCが等しくなるときで、
f=1/2π√LC=1÷6,28÷√(15,9H×100pF)
=3990Hz
この周波数でインピーダンスが極めて高くなるはずですが、実際にはQの大きさを確認する必要があります。コイルのリアクタンスXLと巻線間容量XCを計算すると
XL=2πfL=6,28×3990×15,9
≒400KΩ(=XC)
電源の内部抵抗を10KΩとすると並列共振回路のQは
Q=R/XL=10/400=0,025
このQは周波数特性にどのような影響があるのでしょうか。中心周波数が3990HZ≒4KHzですから、低域のインピーダンス上昇地点をf1とすると
f1=4KHz×0,025=100Hz
高域のインピーダンス上昇地点をf2とすると
f2=4KHz÷0,025=160KHz
となって高域ではほとんど周波数特性に影響が無い事がわかりました。しかし低域では若干問題が有りそうです。
【33】2次コイルの影響
トランスの1次コイルに電流が流れた時、2次コイルに負荷抵抗がつながって、電流が流れる時と、負荷抵抗が無く電流が流れない時とでは動作が違うのはなんとなく判りましたが、具体的にはどのような原理でどう違って来るのでしょうか。
2次コイルに何も負荷抵抗がつながっていない時、コイルの両端には電圧が発生しています。しかし発生した電圧は、どこにも流す相手が無く再びコイルに戻ります。