今回は水平出力管6CM5の国産改良版、12GB3を5組パラレルにしたSEPPアンプを試作します。ただし32Ω:8Ωのマッチングトランスを使いますのでOTLアンプではありません。
現在トランジスタアンプは、どれもこれもコンプリメンタリによるフォロワ化してしまい、ドライバートランジスタの音を、言わば「シリコントランス」によってインピーダンス変換する回路となってしまいました。
そんな中、出力段に増幅度を持たせる従来型SEPP回路は、今や真空管独自の回路となったようです。
右が実測した12GB3の特性図です。プレート電圧200Vの時、1ペアあたり32Ωを5倍にした160Ω負荷なら、出力10W。トータルで50Wのアンプになる予定です。
供給電圧はその倍の400V 、ピーク電流は425mAの5倍なので、3A強となり、これを電源トランスに求めると、それだけで10kg以上になるでしょう。
そこでスイッチング電源の起用に踏み切りました。電源の構成内容は下のブロック図のようになっていて
*420V 3,5A 1,5kWのB電源、70V×6(複写機用か?)
*12V 13Aのヒーター電源、(パソコン用)
*−48Vのバイアス電源、24V×2(汎用)
このようにすべてスイッチング電源ユニットでつくります。
電源のブロック図
SEPPモノラルアンプ用1,7kWスイッチング電源システム
ただし体積は予想以上に大きくなってしまいました。この時点では写真に写っていますが、取り扱う電圧が高いので、対グランド間のサージアブソーバーは、すべて取り外しました。
スイッチング電源の問題点とは?
軽いが体積が大きくなり勝ち |
高電圧の物が少なく直列にすると耐圧が問題になる |
高周波を使うので取りにくい電磁波ノイズが発生する |
トランジスタによる電力回路が入るため冷却が必要 |
ところで右の特性グラフを見ると、ロードラインがオレンジ色のプレート損失15Wのラインを大きく上回っています。
−プレート損失について その1−
確かに最大出力時のプレート入力は50Wを越えてていますが、カーブトレーサーを使った実験の結果、まったく大丈夫だとわかりました。
つまり、バイアス電圧0Vでプレート電圧を0V〜140Vと繰り返し正弦波でスィープさせても、いわゆるプレートの赤化などが起きません。この時のピークプレート入力はDCなら55Wですが正弦波なら実効値の27,5Wとなります。
ところがスィープはプラス側だけなので、本当の実効値はその半分の14W弱になるわけです。これはプッシュプル動作にも当てはまり、動的プレート損失は、静的プレート損失の4倍まで耐えられるという事になります。
そこで特性曲線に、動的プレート損失60W(Pdd)のラインを引いてみました。これが本当なら、このアンプは長時間最大出力を出し続けても、何ら問題無いはずです。
−プレート損失について その2−
もっとご都合主義で考えると、150V前後の比較的低い電圧において、いわゆるプレート損失の計算式は、当てはまらないのかもしれません。
勝手に解釈するなら、低い電圧では、電子の衝突エネルギーが減少し始めるというわけです。そこで以下のような実験をしてみました。
球 |
12GB3 |
Ep |
150V |
200V |
Ec1 |
−10V |
−22V |
Ip |
245mA |
184mA |
この状態を真っ暗にした室内で発生させ、プレートが少しでも赤くなり始めたらカットオフ状態にする。そして、そこまでかかった時間を計る。というものです。
結果は10秒以上かかりました。しかもこの時の実効プレート入力は36,8W、つまり本来のプレート損失の245%です。
これらの考えが正しいとすれば、あまりプレート損失にこだわらず、電流特性に着目して、手に入れやすい球を多数ゲットした方が、経済的であるということになります。
ただしフッターマンのようにビーム接続にすると、プレートはOKでも、第2グリッド損失が極端に上昇し、破壊される可能性があります。
次回は、このおバカな電源を使った、アンプの製作に入ります。