1、送信管魂ここにあり!
褐色のハカマに、G管独特のシルエットも麗しい送信管 1626 は、2017年現在かなり低価格で出回っています。理由は巷に多く放出されている上に、用途がミニワットアンプくらいしか思いつかない点にあるようです。

規格表を見る限りプレート損失は5Wしかなく、増幅率であるμも5なので、出力管としても電圧増幅管としても、今一つ決め手に欠けます。

故に製作記事では「1W前後の出力でも、私にとっては音量に対し不満はありません。」とする定番の念押しコメントが、多くの場合ついて回ります。

また「出力に不満はない。」と言われながらも、実際にはメインシステムとしては登場させてもらえない場面が多く、わずかな出力増加を狙ってポジティブグリッド動作をさせても、苦労の割には効果がないでしょう。

というのもポジティブグリッド動作は最大出力の大小に関係なく、それなりのグリッド電流が流れるので、相応の回路規模を用意しなければならず、元々最大出力の小さいミニワッターには、効率の悪い不利な方針といえるのです。




    


そうした話とは別に、彼らは何と言っても送信管ですから、もしかしたら大前提である規格表以上のポテンシャルを持っているのかもしれません。そこで少し無理を言って7,5W程度のプレートDC入力にも耐えられるのか試してみました。

すると・・・プレートの赤化もなく、全くOKです。これに気をよくした私は、調子に乗って10W入力を試してみました。具体的にはEp=350V、Ip=30mAという条件で200時間動作を確認しましたが、電流変化もプレートの赤化も無く、全然問題ありません。

さらにEp=350V、Ip=34mAという、12W入力による800時間動作実験てもOKで、なんとこの球は暫定プレート損失12Wの、知られざる本格的パワー管だったのです。さっそくここまでの実験を基に、特性カーブを計測してみました


              


またヒーター電圧は9Vまであまり変化がなく、むしろ直線性は若干向上していますが、9V以下では大電流領域でエミッション特性に影響が出てしまいます。


              


今回も邪道的とは言え、計測結果を改めて眺めてみると、1626 はなかなか素晴らしいカーブを持っている送信管、かつオーディオパワー管であるとわかり、そしてこれにより計測できる3定数は下の図のようになります。

グラフのgmやRpを見ると、ほとんど2A3の半分といった感じで、パラレルで2A3のような動作も出来ます。もちろん値段の安さやグリッド電流に対する強度は、2A3の比ではありません。

もう少し暴言を吐くなら、これは傍熱型の45と言っても良いでしょう。ただしμやgmが若干高い分、高感度になっているので、ドライブは楽です。


              


以上のカーブと身勝手な定格設定から、1626 シングルアンプを考えてみましょう。プレート入力は定格の240%に及ぶ12Wとなりますが、それでも管壁温度は実測値130℃に収まっていて、余裕すら感じ取れます。

ですからこの動作に関しては、1626 から強引に出力を絞り出しているというよりも、今まで神のお告げの如く信じ込んでいた5Wという定格自体、いったい何だったのだろうという感覚の方が強いのです。

むしろ2A3をカソードフォロワーなどでプラス側までドライブする方が、よほど球にとってしんどい使い方でしょう。私たちはプレート損失に敏感な反面、カソードから熱エネルギーの煽りを受けている第1グリッド損失については、無視しがちになります。


               


               


               


さっそく回路図を描いてみましょう。電圧増幅回路は3極管を用いることが一般的になってしまったため、6AU6などの5極管が安く出回っているのは、大変有り難いことです。

多くの人が街道ルートしか知らず大渋滞を起こしているのを横目に、誰も気づかない裏道をスイスイ進むのに似たような感覚で、極めて経済効率の良いアンプの製作が可能になるからです。

ちなみにB1PPでは、プレート電圧600Vと相変わらず高派的※ですが、1626 pp としてはかなり大き目の19Wが期待できます。


              


この手のアンプなら規模もそう大きくならないので、サラッと作ろうかと思ったのですが、2017年9月1日またもや咽頭癌が見つかったため、退院後まで製作はおあずけとなりそうです。




※高派:バカな人は高い所に上りたがると言われるが、同様にやたら高電圧でアンプを作りたがる人の事。




つづく



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