当初811Aという見た目もカッコよくプレート損失も充分な球の利用方法を模索中、6AC5のようなダイレクトカップリングは出来ないものかと、RCAのマニュアルにも未発表の微小電流領域特性を計測していました。
するとA2級動作に最適な、すばらしいデータが出てきました。どうやら下のグラフの様な直線性を示す特性カーブが、ほとんど誰にも発掘されず眠っていたようなのです。
話はそれますが、私のA2級動作探求は、70年代初期MJ誌で浅野先生の6AC5の記事を読んで、こんな球があったのかとえらく驚いたところから始まります。
翌日、早速ジャンク屋をしらみつぶしに探すと、さすが秋葉原、なんと店の隅にあるゴミ箱のようなところから数本出て来たではありませんか。
私にとっては感動のお宝ですが、店にとってはゴミ同然なので、1本30円で購入し早速アンプを製作した思い出が有ります。
当時は6F6のWE版ともいえるCZ501Dが100円で投売りされていたり、シルバニアの6B4G、タングソルの5998など、学校帰りに本当にゴミ箱からタダで拾っていました。
時代はまさに実用品としての真空管の終焉期であり、趣味としての真空管ブームの黎明期だったのです。
話は戻りますが、ならばこの優れた直線性を、ぜひ他の真空管マニア諸兄にも活用してほしいと考え、プレート電圧850Vでバイアスがプラス15Vの、6L6チョークフォロヮドライブのアンプを試作してみたところ、予想通り極めて簡単な回路構成で、出力15Wの低歪なアンプがあっけなく出来上がりました。
次に、その応用編として、プレート損失が2倍以上あり、特性がよく似ている572Bを、同じ回路のままプレート電圧のみ850Vから1250Vに上げて動作させたところ、若干直線性は劣るものの、50Wの出力が得られる事がわかりました。
つまり、この方式は3-500などプレート損失が大きいB級専用送信管を使う事により、プレート電圧(プレート入力電力)を上げるだけで、100Wを越えるシングルアンプが簡単に成立するため、私のようにシングルアンプで大出力に執着する人にはうってつけなのです。
逆に言えば、内容的には50年代に流行った、6AC5と76によるダイレクトカップリングの大型化でしかないのだ、というクールな部分を持っていないと、ついつい数値誇示に陥り、ひたすら大出力を追い求めてしまうことになりかねません。
またドライブトランスが不要なため、低歪なA2級アンプがローコストに出来るというメリットがあります。
たとえば下の特性は大型送信管810をA2級で使った、ある有名なトランス結合方式の歪率ですが、カソードとオーバーオールでNFBをかけても、なかなか低い歪にならないことがわかります。
この場合、実は810のグリッドで発生する歪が原因なので、問題の患部であるグリッドにNFBなどで直接回復治療をしてやらないとダメなのです。
つまりドライバーの出力から前段にNFBをかけるなどすれば、より効率的に歪を減らすことが出来ますが、ドライブトランス使用という縛りの中では、それもやりづらくなっています。
ところで、もし100W超えのアンプを目指し2000V以上のプレート電圧を使用する時は、OPTの耐圧を越えるため、アマチュア無線のリニアアンプと同様、プレートチョークと3KV程度の高耐圧コンデンサで負荷を構成し、PP用OPTをマッチング回路(マッチングトランス)として使う事になります。
その際、プレートチョークは10〜20H程度の物を数個直列にしてインダクタンスを稼ぎます。こうするとコイルの浮遊容量が直列となって減少するため、高域で有利になります。もちろんシャーシに対してフロートさせることもお忘れなく。
またチョークの直流抵抗成分も負荷抵抗として有効ですので、シングルOPTを使った場合と違い無駄になりませんし、PP用OPTはインダクタンスが大きいので、8KΩの物を16Kとして使っても、低域に極めて有利なシングルアンプになります。
さらにカソードに使うチョークは10Hもあれば十分で、下の図のように、10〜30Hまでインダクタンスを変えた回路を測定しても、性能は変化しませんでした。
この回路最大の特徴は、ドライバーである6L6のカソードチョークの電圧降下分12Vを、6L6にとってはマイナスバイアス、572Bにとってはプラスバイアスとして両立させ、きわめてシンプルな回路構成としている点で、これがダイレクトカップリング本来の姿です。
時々パワー管のカソードにバイアス抵抗を挿入して、電圧の辻褄合わせをしている回路を見ますが、あれはロフチンホワイトのカソードフォロワ版と言うべきで、ダイレクトカップリングを名乗るのは無理でしょう。
なぜならダイレクトカップリングのキモ(あるいは美学)は、バイアス共通の直接結合だからなのです。ところがカソードに抵抗を入れて、信号部分をバイパスコンデンサーに流した時点で、バイアス不共通のコンデンサ結合という普通の回路になってしまいます。
下の図のような場合、「直結だから音が良い」と感じたなら、それはカソードに使った「フツーのケミコン」の音が良かったわけですし、グリッド電流によるカソード電圧の変動は、もはや無視状態といえます。
バイアスの調整は6L6(3結)のプレート電圧で行うため、、トランジスタによる可変型定電圧回路を各チャンネルごとに設けました。シンプルで、しかも直結ドライブ回路を旨とするダイレクトカップリングを、それ専用ではない球で実現するには、こうしたインフラ部分が必要です。
このバイアス回路はわずかな調整電圧でも可変可能なので、大入力信号時、バイアス電圧を上昇させて、最大出力を増加させるえげつない回路(パワーエキスパンダー)も付けてしまいました。
A2級アンプは、バイアス電圧を上げアイドリング電流を増やすほど、動作領域が広まり最大出力が増えるのですが、無信号時の消費電力を減らすため、このようにしました。
出力は1Wで1〜1,5%、4Wで0,75%とか10W〜30Wまで同じ2%、50Wで3,2%となりました。(パワーエキスパンダー使用)
低出力時に歪が増えているのは配置ミスで、OPTがSW電源の誘導ハムを拾っているためです。
572Bのプレート損失は160Wとされているものの、90Wあたりからごく僅かにプレートの赤化が始まるので、プレート電流はその近辺つまり80mA程度に抑えてあります。この時プレート電圧も1150Vに低下しています。
直線性は良好(811Aはもっと良い)な反面、内部抵抗が高いのと、OPTの1次インピーダンスが高いため、ダンピングファクターは0,5、高域のf特は20KHzで−4dBです。そこでまたずるい考えが浮かびました。
つまり、実験段階では、メインのOPTでは通過できない1次側の高域をなんとか活用しようと、高域専用のOPTを自作したのです。
効果は抜群で50kHzまで一見フラットに伸びましたが、位相が回転してクロスオーバーの10kHzあたりにするどいディップが出来てしまいました。
そこで今回は見送り、電気的合成ではなく、ネットワーク不要のスーパーツイーター用サブOPTとして2次側を独立させ、、空間合成を行う時に利用しようと思っています。
このHF専用OPTは、市販の大き目のフェライトボビンにホルマル線を巻いたものですが、製作も簡単だし千円程度と部品も安いので、みなさんも試してみてはいかがでしょうか。
ジャンクのかたまりから20kHzくらいの矩形波が、そのままキッチリ出てくるのには、いささか笑えます。
直流抵抗も少なく、磁気が通過しやすい帯域のため熱を持たず、絶縁はビニールテープでも1200VでOKでした。
下の段に見えているのが中圧(350V)、および高圧(1250V)用電源で,ヒーター用スイッチング電源は電流が大きいためアンプ本体内に配置しました。
その上に見えるのが本体で、中央に3個あるスイッチは、左からファン、ヒーター、B電源となっています。オーディオアンプというよりも、アマチュア無線のリニアアンプを強く意識したデザインで、ONの時は左から順にスイッチをいれます。
ファンは静音性を高めるため、低電圧で回したいのですが、あまり低いと起動しません。そこでスイッチON時には起動可能な電圧がかかり、しばらくして低い電圧になる回路を設けてあります。
OFFのときはヒーターをつけたまま、まず中、高圧を切ってコンデンサのチャージを抜き、次にヒーターを切り、タマが充分冷えてからファンを止めます。ここはあえてタイマーなどを使わず、儀式的に手動でやることにしました。
入力ボリューム周辺のアップ。ほとんど意味はありませんが、ギアとシャフトを使って仰々しくしてみました。その後ろに見えるグレーのものはショートチムニーで、この下にファンがあります。
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