送信管は大電流を扱う場合を想定して大き目のヒーター電力に設計されていますが、オーディオ用、その中でもシングルアンプにおいて、そのままではいささかオーバースペックではないでしょうか。
特にプレート損失45Wである811Aのヒーター電力が、同90Wである572bと同じだったり、4−250Aと4−400Aが同じヒーター電力なのは、なにやら損をしていると感じます。
とはいえプレート赤化無しの811Aシングルでは、15〜20W程度が限界のようです。そこで例によってまた、ずるい考えが浮かびました。
それは「出力が上げられないならば、逆にヒーター電力を下げれば良いではないか!」ということで定格6,3Vを5Vまで下げてみると、電流は3Aとなり、ヒーター電力15Wが実現したではありませんか。
しかしここで皆さんからはギモンが出るでしょう。それは「そうした無謀なな使い方をしたら特性が変わってしまうのではないか。」という点です。ということで早速特性を計測してみました。まずは6,3Vの時です。
続いて5Vの時が下のようになっています。
これにより示されたのは、Ef=5Vの方がグリッド電圧を上げた時、カーブの間隔が広がらないため、結果的にリニアリティの向上が見られる点です。
比較しやすいように2つのグラフを重ねると同時に、5V時におけるシングルアンプの動作例を出してみました。
この動作例により、さすがに15W超はムリですが、ヒーター電力を15Wまで減らしてもほぼそれと同程度の出力が得られ、しかも歪が減るという、うれしいオマケ付きになりそうです。
また5VのSW電源アダプターは手に入り易いため、ハイμ管必須の直流点火にも便利でしょう。プレート入力48Wという動作ですが、ヒーター電力10W分が減少した事で、熱的に若干余裕が出るであろう事を期待してこの設計となっています。
早速FMラジオ再生用で日頃使用中の811A、A2級シングルで試してみました。といってもフィラメントに直列に0,5Ω20Wの抵抗を挿入しただけです。
そして、たったこれだけの変更により一体どうなったかを計測した結果が下のグラフになります。適応回路は7591による、カソードチョークフォロワを用いた無帰還アンプです。
このようにこのアンプも、ついに10Wで歪率1%の大台を割る事が出来、最大出力15W時でも1,5%、3%で区切るなら18Wというスゴイ値とになっています。
また実際のアンプに使用されていた球と、計測に用いた球は別物ですので、このような変化には汎用性があるといえます。
まさにNFBというメイキャップではなく、動作の最適化という女性ホルモンや健康状態により美しくなった女性の如く例えられるでしょう。
真空管たちは、その実用性からさっさとトランジスタ時代に移行してしまったため、本来の美しさを披露する時間も与えられないまま、置き去りにされてしまいました。
そして現代でもそのベールを外すことはなく、懐古趣味団体の席に呼ばれては、インチキ伝統芸能のようなことをやらされているのです。
カイゼンされた811Aシングル 見た目はボロいが歪は少ない
真空管たちの美しい素顔を見る意味でも、これから夏に向けて温度的にも消費電力的にも、ちょっとエコなこの使い方はいかがでしょうか。
ついでに572BによるEf=5Vの動作例を載せておきました。実は572Bでは6,3Vでも5Vでも全く差が出なかったのです。
強いて言えばグリッド電圧40Vくらいから僅かな違いが始まるだけで、より強力な環境を目指して設計されている気がします。
このことから、6,3V-4Aという定格はプレート電流300mA以上の本格的リニアアンプ領域において、有効である一方、オーディオ領域では5Vで充分なのでしょう。
ましてや歪の多い低電圧大電流動作ではなく、高電圧小電流の高品位動作なら、なおさらの事だと思います。
ただし当然の事ですが電圧が低くなった分だけフィラメントの輝きが減り、暗くなります。これを見て「音が暗くなった。」「音の輝きが減った。」「本が読みづらくなった。」と思われた方は、6,3Vで良いと思います。
このエコヒーティングは、今後別の大型管に活用できるか検証します。特に大飯喰らいな4−400Aの5V15A(75W)は、あまりに大きく理不尽です。
参考として4−400Aのヒーター電力についての実測例を出しておきました。
4−400Aのヒーター電圧対ヒーター電力(DC)
4,0V |
4,5V |
5,0V |
12,5A |
13,5A |
15,0A |
50W |
61W |
75W |
このように0,5Vの差が10Wもの電力の違いとなってくるわけですが、だからといって無闇にエコヒートへと走るのには、1つ気になる事があります。
つづく
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